これまでの疫学調査から、幼少期(特に3-4歳まで)に複数回の麻酔薬曝露を受けることが、成体期以降の学習・記憶障害やADHD(注意欠如多動性障害)のリスクの増加に関連することが分かっていましたが、その理由は良く分かっておらず、有効な治療法も確立されていませんでした。本研究ではそのメカニズム解明に取り組み、麻酔薬が神経幹細胞の遺伝子発現を変化させ、神経幹細胞を強制的かつ長期的に休止させることが原因であることを発見した。また、麻酔薬誘導性の神経幹細胞の継続な休止に伴い、発達期から成体期にかけて新生されるニューロンが少なくなるために、後天的な学習・記憶障害が引き起こされることが分かりました。また、本研究ではその麻酔薬誘導性の認知機能低下を改善する方法についても研究を行い、自発的運動が、休止状態にあった神経幹細胞を呼び覚まし、再活性化することで、学習・記憶障害を改善しうることを明らかにした。こうした成果は幼少期の麻酔曝露後の認知機能低下に対する治療法となりうる可能性があり、将来的な臨床応用が期待できる。 なお、本研究成果は、2021年9月13日(水)午後3時(米国東部標準時間)に国際学術雑誌『Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America』に掲載され、その他にも『Science Japan - Latest News』『実験医学-2022年3月号』などでも特集された。
|