研究課題/領域番号 |
21K20958
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
熊谷 祐子 自治医科大学, 医学部, 助教 (30625554)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 低比重好中球 / 大腸癌 / 再発 / フローサイトメトリー / 予後因子 |
研究実績の概要 |
In vitroの解析:手術患者の術直後に末梢血を採取し、Ficoll遠心法にて顆粒球と単核球を分離し、それぞれの分画でのCD45(+)CD66b(+)細胞を高比重(HDL)、低比重好中球(LDN)とし、それぞれの分画での抗原発現を、Flow cytometerで測定した。NDNと比べ、LDNは成熟マーカーのCD11b、CD16、CD66bの発現が低く、未成熟マーカーのCXCR2、CD62Lの発現は高く、より未成熟型のフェノタイプであった。また、免疫チェックポイント分子PD-L1はNDNではほとんど発現を認めなかったが、LDNでは有意な発現を認めた。In vitro で培養したところこのLDNはNDNと比較しアポトーシスを起こしにくく、長期に生存する細胞集団であると考えられた。
臨床的検討:2017-2021年、当科にて根治切除を施行した178例の大腸癌患者において、手術前後で末梢血を採取、単核球中のCD66b(+)LDNの割合をflowcytometryで測定し、患者予後との関連性を検討した。術前のLDNの割合は中央値(M)=0.97%(0.019-32.0%)で、ステージによる差はなかったが、好中球リンパ球比(NLR)と正の相関を示した。一方、術直後に採取した血液中のLDNは多くの症例で増加し 、手術時間、出血量と弱い正相関を示した(r=0.23, 0.16)。観察期間中(中央値387日)で、Stage I患者には再発を認めなかったが、Stage II以上の129例中12例に再発を認め、それらの症例の術後LDNの割合は非再発症例と比べて有意に高値であった。ROC解析にてcut off lineを4.9%と設定すると、術後LDN高値群は低値群に比べて有意に無再発生存率(DFS)が悪かった(p=0.0014)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大腸癌患者の手術前後の末梢血中の低比重好中球(LDN)の表現型を特定し、アポトーシスを起こしにくいという新規知見を得ることができた。また、100例を超える臨床検体用いて、術後LDNの割合が再発を予測する新たなバイオマーカーとなりうることを示唆する結果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
1. 臨床的検討:前年度までの検体解析と予後調査を継続し、術後血液中の低比重好中球(LDN)の再発に及ぼす影響を明らかにする。
2.エクソソーム中のmicroRNA解析:手術前後の末梢血中から超遠心法を用いてエクソソームを分離し、miRNAを抽出し、術前と比べて術後検体のLDN値およびNET濃度が著明に増加したサンプルを選別し、PCRアレーを用いた網羅的解析法にてその成分分析を行い、特に劇的な変化が認められたmiRNAを見出す。この結果とWeb上で公開されているmiRNA情報を統合し、外科的ストレスが末梢血中へのLDN誘導、NET産生現象を修飾する可能性のあるmiRNAを数種類選択し、そのmiRNAに焦点を絞ってRT-PCR法にてその発現量の術前後での変化を全サンプルで定量する。これらの結果と術後経過を照合し、がんの再発、予後との相関性を検討する。結果から、最も有力なmiRNAを数種類選抜し、そのmiRNA-mimicまたはanti-miRNAを化学合成し、Balb/Cマウスに投与し、数時間後に同系大腸癌細胞colon26を尾静脈注入し、3週間後に犠牲死させ肺転移の個数、重量を測定し、これらのmiRNAが実際に癌転移を促進するか?を明らかにする。また、癌細胞投与の翌日に、犠牲死させ、骨髄中の造血細胞の組成、末梢血中のG-MDSCの頻度をFACSにて検討し、標的miRNAが骨髄における顆粒球の分化や末梢へのegress現象に与える影響を明らかにする。また、肺組織を採取、CD66b、シトルリン化ヒストンに対する抗体を用いた免疫染色によって、肺組織中好中球の浸潤とNETの存在を検討する。最後に、Balb/Cマウスに外科的侵襲を加えたのちに標的miRNAのanti-miRNAやmimicを投与することで転移が抑制されるかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通りに使用している。残額については、実験に必要な消耗品費として使用予定である。
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