研究課題
虚血再灌流障害は、虚血状態にある臓器や組織に血流が再開された際に惹起される臓器および組織の障害で、そのメカニズムは完全には解明されていない。肝臓外科領域においては、虚血再灌流障害は間欠的肝血流遮断(Pringle法)や肝移植の際に生じる回避できない事象であり、虚血再灌流障害の予防・軽減は術後成績の向上と移植肝の保護のために重要な課題である。今回注目した食物繊維であるイヌリンは、大腸内の腸内細菌叢により有機酸産生を促し抗炎症効果を発揮する。本研究では、イヌリンおよび腸内細菌によりイヌリンから産生されるプロピオン酸に焦点を当て、肝虚血再灌流障害に対する作用について検討した。イヌリン配合飼料の摂取は、肝虚血再灌流障害を有意に軽減し、門脈内および盲腸内のプロピオン酸濃度が有意に増加した。マウス糞便における16S rRNA遺伝子解析では、イヌリン投与群のマウスではコントロール群に比べて、プロピオン酸産生菌であるBacteroides acidifaciensの割合が著明に増加していた。さらに、糞便の予測的機能プロファイル解析(PICRUSt解析)において、イヌリン投与群のマウスでは、コントロール群に比べて、プロピオン酸合成経路に関わる遺伝子の発現が増加していることを確認した。短鎖脂肪酸のうちプロピオン酸に焦点を当て、プロピオン酸の腹腔内投与を行ってみると、コントロール群と比べて、肝虚血再灌流障害は有意に抑制された。そのメカニズムとして血清HMGB-1濃度の低下およびTLR4に関わる炎症カスケードの抑制が生じていることを証明した。
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