研究課題/領域番号 |
21K20967
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡村 綾子 大阪大学, 医学系研究科, 技術補佐員 (40910253)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 卵巣がん / 環状RNA / 新規バイオマーカー / 腹膜播種 |
研究実績の概要 |
卵巣がんは現代でも少なくとも3分の1の患者が死亡する“致死的な”疾患である。卵巣がんの予後を根本的に改善させる方策の一つとして、早期発見につながる新規バイオマーカーの開発と新しい腹膜播種治療法の確立が挙げられる。そこで、予後不良な卵巣がんの腹膜播種制圧を目指し、血漿中に僅かであるが安定して存在する環状RNAに着目した。環状RNA は5′末端と3′末端がつながっている一本鎖のRNAで,主にバックスプライシングにより生成される。いくつかのがんにおいて環状RNA が特異的に異常発現することが報告されている。環状ゆえPoly A Tail をもたないため、RNase に分解されず、体液中で安定して存在することができる。つまり環状RNAは、ヌクレアーゼに対する安定性、分解への抵抗性があり、微量ではある血漿中においても安定して存在できるため、もし卵巣癌特異的に放出される環状RNA を同定することができれば、新規卵巣癌バイオマーカーとしての可能性が期待できると考えた。具体的には高異型度漿液性卵巣がんと子宮内膜症関連卵巣がんの組織およびそれぞれの対側の正常卵巣よりRNA を抽出し、circular RNA microarray を行い、卵巣がん特異的に発現が亢進している環状RNA を同定し、その腹膜播種進展に果たす役割を解明することにした。同定した環状RNA の卵巣がんの腹膜播種進展における役割を環状RNA のマイクロRNAのスポンジ機能に焦点をあてて解析する。さらに保存する卵巣がん患者および良性患者の血漿を用いて、デジタルPCR 法により血漿中の環状RNA の発現量を定量し、そのバイオマーカーとしての可能性を証明する。以上の検証を通じて、卵巣がんの腹膜播種を制御する環状RNAの機能を解明するとともに早期発見につながる新たなリキッドバイオプシー法を確立したいと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
卵巣がんの約75%を占める高異型度漿液性卵巣がん(High Grade Serous Ovarian Carcinoma; HGSOC) と子宮内膜症関連卵巣がん(Endometriosis Associated Ovarian Carcinoma; EAOC)における環状RNAの網羅的解析から研究を開始した。具体的には、対側の正常卵巣組織も採取できているHGSOC 2症例とEAOC 2症例の癌組織および正常卵巣計8サンプルよりRNA を抽出し、circular RNA microarray を行った。HGSOC で正常卵巣に比べて発現が2倍以上増加している環状RNAを計82個であった一方、EAOCで発現が2倍以上、増加していたものはcircRNA_059665、circRNA_101001、circRNA_004662の3つのみであった。そこで、この3つの環状RNA に焦点をあてた機能解析を先行させることにした。まず、他の卵巣がん組織より抽出したRNA よりRT-PCR法による確認試験を行い、この3つの中でも特にcircRNA_004662の発現が正常卵巣に比べて有意に上昇していることを確認したため、circRNA_004662への絞り込みを行った。EAOC の中でも明細胞癌由来の細胞株であるOVISEとES-2 を用いて、それらの細胞株におけるcircRNA_004662の発現を検討したところ、正常不死化卵巣上皮細胞(IOSE)に比べて、有意に発現が増加していた。そこでさらにcircRNA_004662の機能を解析するために特異的なsiRNA を作成して、卵巣がん細胞株に導入したところ、がん細胞の増殖能には影響を与えなかったが、有意にがん細胞の浸潤能を抑制した。すなわち、この環状RNAの癌浸潤における役割の一部を解明した。
|
今後の研究の推進方策 |
circRNA_004662の機能解析をさらにすすめていく。現在、OVISEとES-2 にcircRNA_004662に対するsiRNA を導入した細胞株とControl siRNA を導入した細胞株より蛋白を回収しており、それをすでにProtein Array に提出している。その結果に基づき、circRNA_004662の作用機序を明らかにする。さらにこの環状RNAの機能をマイクロRNAに対するスポンジ機能に焦点をあてた解析を行う。具体的には、環状RNA と miRNA の関連性の詳細なアノテーションを行うべく、circRNA_004662が標的とするmiRNA をNIH が提供するCircular RNA Interactomeで In silico 解析する。さらにアノテーションで候補miRNA が確定すれば、保存する卵巣がん組織より抽出したRNA を用いて、がんおよび正常組織における候補miRNAの発現をmiRNA RT-PCR 法で検証し、がん組織で発現が低下しているmiRNA を標的miRNAとしてリストアップする。また、circRNA_004662 と標的miRNA が直接結合していることを証明する。具体的にはBiotin標識した標的miRNA を streptavidin磁気ビーズに結合させ、卵巣癌細胞株Lysate に反応させる。その後ビーズに結合したRNAを抽出し 標的miRNA と環状RNA が結合していることをqRT-PCR 法で証明する。さらに circRNA_004662の卵巣がん腹膜播種進展に与える影響を解析する。具体的にはoverexpression plasmid を作成し、卵巣がん細胞株に強制導入し、がん細胞の増殖能、浸潤能、接着能、抗がん剤に対する感受性に与える影響を検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度末に実施した解析費用に充当するため。
|