研究課題/領域番号 |
21K20968
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山本 顕生 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (50909653)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 血液内細菌叢 / 尿路上皮癌 / エクソソーム / 早期血液診断薬 / 腫瘍免疫 / 腫瘍微小環境 |
研究実績の概要 |
尿路上皮癌には簡便に診断及び治療効果を予測できる血液マーカーは存在しない。近年、ヒト生体内の細菌叢は宿主にとって臨床的に重要な意義を持っていることが明らかになってきており、この細菌叢が作り出す代謝環境は尿路上皮癌の免疫療法に影響を与えることがわかってきている。我々は現時点で健常者の血清20サンプル、組織限局性尿路上皮癌患者の血清50サンプル、癌免疫療法(ペムブロリズマブ治療)を受けた転移性尿路上皮癌患者の血清31サンプルを収集し、各血清サンプルから細胞外小胞(EV)を抽出し、16S rRNA解析にて細菌の遺伝情報を取得した。 得られた血液循環EV中の細菌遺伝情報と、同一患者内の腫瘍組織の免疫状態を解析した結果、末梢血中EVに存在するFirmicutes門の遺伝情報の発現量は腫瘍浸潤T細胞数、及び腫瘍浸潤T細胞の活性化マーカーと逆相関するという新たな知見を得られた。更に、検体を採取した患者の臨床経過と照らし合わせることで末梢血中EVに存在するFirmicutes門の遺伝情報の発現量が低下している患者は腫瘍免疫療法の治療効果が高く、生存期間が有意に延長されていることも見出した。これらの結果は、当初の目的である尿路上皮癌の新規血液バイオマーカーとなる可能性を示していると考えられる。 また、現在細菌門までの結果が得られているため、更に細分化した特定の"細菌属"や"細菌種"のレベルまでの発現が評価できれば、既に樹立に成功している尿路上皮癌発癌モデルマウス(BBNマウス)から採取したマウス由来尿路上皮癌を同種移植し、免疫細胞の共存下での特定の"細菌種"の作用メカニズムを追加検討していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り患者検体サンプルを収集することができ、16S rRNA解析により細菌遺伝情報は取得できており、また、ペアマッチさせた患者腫瘍検体における腫瘍局所免疫状態のプロファイリング、及び患者の臨床経過から腫瘍免疫薬に対する反応性に関する情報も取得できているため、当初予定していた血液新規バイオマーカーとしての性能の評価は既に完了していると考える。ここから更に、細かい細菌遺伝情報が取得できれば、癌増悪や抑制に対する効果の検討をvivoで検証することができ、その場合は当初の予定以上の成果となると考えられるため。
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今後の研究の推進方策 |
ショットガンメタゲノム解析が可能であれば細菌のさらに細かな分類階級が同定できると考えており、そこから細菌”種”の同定ができればvivoもしくはvitro実験により各細菌種が癌に及ぼす影響を細かく検証できると考えている。そのため、さらなる細菌情報を取得し、得られた結果から診断マーカーとしての信頼性の検証及び癌のメカニズムに関連する研究へと発展させていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていくうえで必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額と執行金額が異なった。
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