男性不妊症の原因の9割は特発性の精子形成障害だが、その全容は未だ解明されていない。精子幹細胞は幼若期に分化し、その細胞数が規定され、精子の供給源 として重要である。私たちは、これまで停留精巣における精子幹細胞の分化異常について研究を進めてきた。その過程で、甲状腺機能低下症を合併した症例では 精子幹細胞数が有意に増加することを見出した。そこで本研究の目的は、精子幹細胞の分化過程における甲状腺機能の役割の解明とした。本研究では、精巣組織を体外で培養する器官培養系を確立し、甲状腺ホルモンによる精巣構成細胞の形質変化をフローサイトメトリーやマイクロアレイなどを用いて解析する。本研究の成果は、精子幹細胞の分化・増殖過程の解明につながる。さらに、甲状腺機能の評価による男性不妊症のリスク予測や、新規治療薬開発が期待できると考えた。 上記の研究目的と研究実施計画に沿って研究を開始し、引き続き幼若期ラット精巣の最適な器官培養環境を模索している。培養した精巣組織の分化・増殖の状態を評価するための最適な免疫染色マーカーを探索しており、生殖細胞に関しては抗DDX-4抗体や抗GFRα1抗体、抗KIT抗体などにより思春期前の幼若なラット精巣にみられる生殖細胞を細分化して観察できるようになった。また、セルトリ細胞については 抗AMH抗体や抗Sox9抗体などにより染色が可能となった。 培養環境により精巣組織に異なる変化がみられており、組織学的な観点からと、分子生物学的な観点から比較検討を開始している。
|