微小重力環境飼育マウスのヒラメ筋で増加し、液性因子としても報告があるPvalbについて、マイオカインとして骨代謝に関与する可能性を検討した。まず、マウス大腿骨より単離した骨髄細胞をリコンビナントタンパク添加群と非添加群に分け培養し、RANKL刺激に応答して形成された破骨細胞数を比較したが、リコンビナントタンパク添加による顕著な影響は確認できなかった。次に、マウス頭蓋骨より単離した骨芽細胞を同群に分け培養し、骨芽細胞分化関連遺伝子発現およびALP活性を比較したが、リコンビナントタンパク添加の影響は顕著ではなかった。したがって、Pvalbは非荷重環境において産生が高まるマイオカインである可能性はあるが、破骨細胞や骨芽細胞に直接作用し骨代謝を制御する可能性は低いと考える。 国際宇宙ステーション内の微小重力または人工1-g環境、地上の1-g環境で30日間飼育したマウスの腓腹筋から抽出したタンパク検体について、液体クロマトグラフ質量分析装置を用いて発現プロファイルを解析し、微小重力曝露が及ぼす影響を評価した。微小重力曝露に伴い変化したタンパク発現プロファイルについてのIngenuity Pathway Analysisの結果、特に速筋化に起因すると推定される好気的代謝能の有意な低下が示唆された。この代謝能の変化は、人工1-g環境飼育マウスでは抑制された。また、人工1-g環境飼育により変化した腓腹筋のタンパク発現プロファイルからは、ミトコンドリア機能に正に影響するEstrogen Receptor Signalingの活性化も示唆されたことから、この変化が好気的代謝能維持に関与した可能性は高い。さらに、微小重力環境飼育マウスの腓腹筋では、ヒラメ筋と同様に血液凝固や組織線溶に関係するタンパクが増加していたことから、これらのタンパクは両筋の非荷重に伴う特性変化にも関与する可能性が示唆された。
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