研究課題/領域番号 |
21K21014
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
中野 綾菜 広島大学, 病院(歯), 歯科診療医 (60911568)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 顎裂部閉鎖治療 / 組織工学 / 細胞成長因子 / キメラタンパク質 / 放出制御 / コラーゲン / 間葉系幹細胞 / ケモカイン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、口唇・口蓋裂に伴う顎裂部の閉鎖治療に有効な組織工学的手法の確立である。顎裂部における効果的な骨新生には、スペース確保のための足場材料に加え、骨前駆細胞の誘引・分化ならびに血管新生が重要な鍵を握ると考えた。そこで、足場材料としてコラーゲンを採用し、ストローマ細胞由来因子1alpha(SDF-1alpha)、骨形成因子2(BMP-2)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)の三種類のタンパク質性因子を複合化した材料の設計に取り組んだ。 まず、コラーゲン結合性を有するvon Willebrand因子A3ドメイン(vWFCBD)をタンパク質性因子のN末端に融合したキメラタンパク質の作製を試みた。SDF-1alphaの場合は、N末端領域に受容体との相互作用部位があるとの報告が見られることから、vWFCBDをC末端に融合したキメラタンパク質も作製した。それらのキメラタンパク質の作製には、T7lacプロモーター配列を持つpET15b及びpET22bベクターを用い、大腸菌(バクテリオファージDE3の溶原菌)内にて発現誘導した。 いずれのタンパク質も不溶性物質として得られた。そこで、精製及びリフォールディング条件を最適化し、最終的にすべてのキメラタンパク質について可溶性の試料を得ることに成功した。得られたキメラタンパク質のドデシル硫酸-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)分析及び円二色性分光分析(CD分析)により構造を評価するとともに、コラーゲン結合能に関する実験を開始した。これと並行して、SDF-1alphaキメラによる細胞誘引、BMP-2キメラによる骨芽細胞への分化促進、VEGFキメラによる血管形成促進について調べるため、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞を用いたin vitro評価系の確立を急いでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で最も時間と労力を要すると予想されたのは、三種類のタンパク質性因子キメラの作製である。大腸菌内で発現されるリコンビナントタンパク質の多くが不溶性物質として得られることから、その可溶化と生理活性の維持が大きな課題になると思われた。初年度内に、試行錯誤の末、三種類のタンパク質性因子キメラについてこれらの課題を解決し、いずれのタンパク質についても可溶性試料を取得することができたことから、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
三種類のタンパク質性因子(SDF-1alpha、BMP-2、VEGF)とコラーゲン結合ドメイン(vWFCBD)とを融合したキメラタンパク質の作製および構造評価を昨年度までにほぼ終えることができた。そこで、最終年度である令和4年度は、それらのキメラタンパク質の機能評価に焦点を当て研究を進める。 まず、キメラタンパク質に含まれるvWFCBDの機能として、コラーゲンへの結合性及びコラーゲン性担体への担持量を調べる。次に、vWFCBDとコラーゲンとの解離について経時的に追跡し、キメラタンパク質の徐放特性を議論する。 一方、キメラタンパク質に含まれるタンパク質性因子の機能を調査するため、SDF-1alphaではヒト間葉系幹細胞を用いたトランス・メンブレン・アッセイにより細胞誘引活性を評価する。BMP-2の場合はヒト間葉系幹細胞内における骨分化マーカーの発現及びカルシウムの沈着を評価する。VEGFでは血管内皮細胞への分化及び管腔形成能を評価する。 さらに、コラーゲン担体として市販のアテロコラーゲン多孔体を用い、キメラタンパク質を単独あるいは二種類・三種類を同時に担持し、それらの骨形成に及ぼす効果について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
主に旅費の執行が計画通りに進まなかった。これは、新型コロナウイルス感染症の拡大状況が改善されず、当初計画していた学会等に参加できなかったことが原因である。 次年度は、国内外での移動が容易になると予想されるため、学会等での成果発信をこれまで以上に積極的に行いたい。
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