本研究の目的は、口唇・口蓋裂に伴う顎裂部の閉鎖治療に有効な組織工学的手法の確立である。顎裂部における効果的な骨新生には、スペース確保のための足場材料に加え、骨前駆細胞の誘引・分化ならびに血管新生が重要な鍵を握ると考えた。そこで、足場材料としてコラーゲンを採用し、ストローマ細胞由来因子1alpha(SDF-1alpha)、骨形成因子-2(BMP-2)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)の三種類のタンパク質性因子を複合化した材料の設計に取り組んだ。 前年度までに、コラーゲン結合性を有するvon Willebrand因子A3ドメイン(vWFCBD)をタンパク質性因子のN末端あるいはC末端に融合したキメラタンパク質の作製に成功した。それらのタンパク質の作製には、pETベクターならびに大腸菌を用いた。 令和4年度は、得られたタンパク質の円二色性分光分析による構造解析を継続するとともに、とくにSDF-1alpha融合キメラタンパク質に関してコンピュータシミュレーションによる高次構造予測を試みた。その結果、cWFCBDと融合した場合にも、SDF-1alphaドメインの高次構造は良く保持されていることが定量的に明らかになり、また、融合部位がN末端であってもC末端であっても大きな影響を受けないことが分かった。これらの構造的知見は、間葉系幹細胞を用いた機能アッセイ(細胞移動の評価)の結果とよく一致した。 一方、BMP-2及びVEGF融合キメラタンパク質についてコラーゲンとの複合化を検討した。さらに、コラーゲンから放出されたBMP-2融合キメラタンパク質が間葉系幹細胞による骨形成に及ぼす影響について試験した。その結果、未だ実験的検討は完結したとは言えないが、因子の放出に対応して骨分化が促進することを示唆する結果を得た。 SDF-1alpha融合キメラタンパク質の構造と機能、及び、BMP-2及びVEGF融合キメラタンパク質のコラーゲン複合化と機能に関して、現在、論文を執筆中である。
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