本研究では、CTC クラスターの形成とその高度転移能を支える分子基盤を力覚応答の観点から解明し、新たな癌の診断・治療戦略の創出を目指している。 申請者は転移性休眠を再現する担癌マウスモデルに高解像度トラッキング法を応用し,特定の癌細胞集団のみが血中の流体剪断応力に適応可能な CTC クラスターを形成することで,効率的に遠隔臓器に生着することを見出した。そしてこの知見をもとに、転移過程におけるメカノストレスで、癌細胞の力覚応答能の違いによるクローン選択の存在を世界に先駆けて提唱した。 申請者の提唱する「力覚応答性に基づく転移過程におけるクローン選択」という新しい概念に対して、その分子基盤の構築を試みる本研究は極めて高い独創性を有する。それ故、研究成果は、転移をはじめとした癌進展のメカニズムの理解に新たな枠組みを提供する可能性がある。さらに、癌細胞の力覚応答を攪乱させて血流の機械的力で CTCs を排除するといった、生理的な力を取り入れた合成致死誘導療法を含む、これまでにない革新的な治療戦略の創出に発展する可能性を持っている。さらに、循環血流という癌種や個人にほとんど依らない力学的環境に着目することで、様々な癌で共通した転移機構の理解や治療法の開発に寄与する。申請者は、安定クラスター形成後のアノイキス耐性は、細胞種に依らないことを実証した。興味深いことに、CTC クラスター起源クローンは、静置環境ではなく FSS 下でのみアノイキス耐性を示したことから、細胞間接着マシナリーとメカノストレスの協調が特有のメカノトランスダクションを誘導することでアポトーシス耐性を含む転移向性プログラムを発揮させていると考えている。申請者はFSS後の各種癌細胞株から回収したクラスター、シングルセルでmRNA-seqを行っており、現在解析中である。
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