研究課題/領域番号 |
21K21033
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
大田 隼 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 非常勤講師 (40911764)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 細菌DNA / 体液種識別 / 劣化 / 細菌叢解析 |
研究実績の概要 |
法科学的試料から唾液などの体液種を識別することは犯罪捜査に有益な情報を提供するが、試料の“劣化”は体液種識別を困難とする課題がある。劣化した唾液試料の識別にはヒト口腔内常在細菌のDNAマーカーが有用であることが示されているが、唾液試料中の細菌叢が劣化に伴ってどのように変化するのかは明らかになっておらず、どの細菌を標的とした検査マーカーが最適なのかはわかっていない。そこで、本研究は、ヒト体液およびそれらの劣化試料を用いて、細菌叢の変化をDNAレベルで明らかにすることにより、劣化試料からの体液種識別に有効な細菌DNAマーカーの菌種を判明させることを目的とした。 初年度については、研究計画に従い劣化に伴う細菌叢の変化を解析するための準備として、試料等の収集、劣化試料の作製、リアルタイムPCRを用いた生菌率解析を進めた。はじめに、口腔内グラム陽性細菌のStreptococcus salivariusと口腔内グラム陰性細菌のVeillonella atypicaのゲノムDNAを特異的に増幅するPCRプライマーを異なる増幅サイズで設計した。これにより細菌DNAの分解度の測定を可能とした。次に、EMA-PCRキットおよびリアルタイムPCRを用いた実験の条件検討を行い、生菌率解析の実験系を確立した。続いて、唾液試料の斑痕化に伴う上記2種類の細菌の生菌率の変化およびDNA分解度の変化を解析したところ、細胞壁の構造が異なる上記2種類の細菌については同程度の相対的な生菌率の低下が観察された一方で、V. atypicaのみDNA分解度が上昇する傾向が示された。これらの結果はStreptococcus属の細菌DNAマーカーとしての頑健性が示された先行研究の知見とも矛盾しないことから、劣化した唾液試料においてもStreptococcus属の菌種が優位に検出される可能性があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
唾液の斑痕化に伴う変化については検討が進んだものの、EMA-PCRによる生菌率解析の実験系の条件検討に時間を要したことから劣化試料の検討には至っておらず、当初の計画に照らすと研究の進捗状況はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
法科学的な唾液試料の状態変化(斑痕化、劣化)に伴い口腔内常在細菌の生菌率は低下して構成が変化していくと考えられるが、その詳細は明らかではない。今後は、研究計画に従い検討する体液種を唾液に絞り、劣化試料についての検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は実験系の条件検討に時間を要して計画の進展がやや遅れたため、研究成果の発表に至らなかった分、わずかに支出が減少した。この分は次年度の研究成果発表に使用する予定である。
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