研究課題/領域番号 |
21K21037
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
門田 珠実 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (10908643)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | ピロリ菌 / 乳酸菌 / ミュータンスレンサ球菌 / う蝕 / 胃・十二指腸疾患 |
研究実績の概要 |
本研究は、ミュータンスレンサ球菌と乳酸菌(Lactobacillus属)が口腔内に共存することで、う蝕の重症度やピロリ菌の定着および病原性にどのような影響を及ぼすのか解明することを目的としており、バイオフィルムアッセイとう蝕誘発ラットモデルを用いた検討を予定している。乳酸菌は300菌種以上存在することが報告されているが、これら全ての乳酸菌種を用いて検討を行うことは困難である。そのため、令和3年度は、バイオフィルムアッセイおよび動物モデルを用いた検討に使用する乳酸菌種の選出から開始した。 90名の被験者から唾液および抜去歯を提供いただき、抜去歯のう蝕罹患状態を診査した後、それぞれの口腔サンプルから細菌DNAを抽出してピロリ菌の検出や細菌叢の解析を行った。その結果、Nested PCR法によりピロリ菌が検出され、歯髄に至るう蝕が認められた被験者からはL. iners、L. reuteri 、L. salivarius、L. vaginalis、L. zeaeが検出された。一方で、ピロリ菌が検出されず、う蝕が認められなかった被験者もしくは象牙質に及ぶう蝕が認められた被験者においては、L. coleohominis、L. delbrueckii、L. pontisの検出率が高い傾向にあることが示された。 以上の結果から、乳酸菌の中でもL. coleohominis、L. delbrueckii、L. pontisはピロリ菌の定着とう蝕の進行を抑制できる可能性を有することが考えられ、これらの乳酸菌に着目し、ミュータンスレンサ球菌と乳酸菌の口腔における共存が、う蝕の重症度やピロリ菌の定着および病原性に及ぼす影響について検討を重ねていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒト口腔バイオフィルムに定着でき、う蝕の重症度やピロリ菌の定着に影響を与える可能性を持つ乳酸菌を選出するため、ヒト口腔におけるピロリ菌の検出と細菌叢の解析を行い、う蝕罹患状態および乳酸菌(Lactobacillus属)の検出率との関係を検討した。サンプル採取は大阪大学大学院歯学研究科倫理委員会の承認後(H30-E32)、被験者の同意を得て行った。90名の被験者から唾液および抜去歯を提供いただき、視診にて抜去歯のう蝕罹患状態を診査した。それぞれの口腔サンプルから細菌DNAを抽出し、Nested PCR検出系によりピロリ菌の検出を行った。その結果、ピロリ菌が検出された被験者は、ピロリ菌が検出されなかった被験者と比較して歯髄に至るう蝕が多い傾向にあることが明らかとなった。 また、44名の被験者の唾液サンプルから抽出した細菌DNAを用いて、16Sメタゲノム解析法により口腔細菌叢の構成について解析を行った。その結果、Nested PCR法によりピロリ菌が検出され、歯髄に至るう蝕が認められた被験者においてはL. iners、L. reuteri 、L. salivarius、L. vaginalis、L. zeaeが検出された。一方で、ピロリ菌が検出されず、う蝕が認められなかった被験者もしくは象牙質に及ぶう蝕が認められた被験者においては、L. coleohominis、L. delbrueckii、L. pontisの検出率が高い傾向にあることが示された。 本年度は新型コロナウイルス感染症拡大によりサンプル採取がやや遅延したが、次年度で予定数の確保が可能である。また、次年度は当初の予定通り、バイオフィルムアッセイやう蝕誘発ラットモデルを用いた検討を行うつもりである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果より、口腔サンプルからピロリ菌が検出されず、う蝕が認められなかった被験者もしくは象牙質に及ぶう蝕が認められた被験者においてL. coleohominis、L. delbrueckii、L. pontisの検出率が高い傾向にあることが示された。これらのことから、乳酸菌の中でもL. coleohominis、L. delbrueckii、L. pontisは、ピロリ菌の定着やう蝕の進行を抑制できる可能性を有することが考えられる。今後はこれらの乳酸菌に着目し、ミュータンスレンサ球菌と乳酸菌の口腔における共存が、う蝕の重症度やピロリ菌の定着および病原性に及ぼす影響について検討を重ねていく予定である。 まず、ミュータンスレンサ球菌と乳酸菌を培養してバイオフィルムを形成させた後に、ピロリ菌を投与して共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察を行うバイオフィルムアッセイにより、ピロリ菌のバイオフィルムへの侵入能を評価する。さらに、う蝕誘発ラットモデルを用いた検討を行う予定としている。生後18日齢のラットにミュータンスレンサ球菌および乳酸菌を経口投与し、スクロース含有う蝕誘発飼料を与え、1か月後にピロリ菌を経口投与する。対照群としてミュータンスレンサ球菌、乳酸菌、ピロリ菌を単独で投与する群と菌を感染させない群を準備する。ラットを安楽死させた後に、う蝕の重症度や口腔および胃・十二指腸組織におけるピロリ菌の定着率、病理組織像について評価する。 着目している乳酸菌のうち、購入可能な菌株はL. delbrueckii、L. pontisであることから、この2菌種を中心に検討を進める予定としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新型コロナウイルス感染症拡大により、ヒトを対象とした研究のサンプル採取がやや遅延したことから、当初の予定よりも実験の進捗状況が遅延している。そのため、令和3年度に予定していたバイオフィルムアッセイに使用する試薬などを購入しなかったため、次年度使用額が発生したが、その分を次年度に全て執行する予定である。
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