本研究では、これまでに204名の被験者を対象として採取した唾液および抜去歯からヘリコバクター・ピロリ菌の検出を行った。その結果、61名の被験者(29.9%)からピロリ菌が検出され、そのうち38名(62.3%)の抜去歯はC2以上のう蝕に罹患していた。一方で、ピロリ菌が検出されなかった被験者143名のうち、抜去歯がC2以上のう蝕に罹患していた被験者は66名(46.2%)であった。これらのことから、象牙質に及ぶう蝕の存在はピロリ菌の口腔への定着の一因となる可能性が考えられる。 また、昨年度実施した16Sメタゲノム解析において、ピロリ菌が検出されず抜去歯にう蝕が認められなかった被験者の口腔から検出されたL. delbrueckiiに着目してミュータンスレンサ球菌やピロリ菌との関係性について検討を行った。L. delbrueckiiを単独でde Man-Rogosa-Sharpe寒天培地へ播種した際と比較して、L. delbrueckiiとピロリ菌を播種した場合に形成されるコロニー数が減少した。これらのことから、L. delbrueckiiはピロリ菌と共に培養することでその増殖が抑制される可能性が示された。 次に、ミュータンスレンサ球菌、L. delbrueckiiおよびピロリ菌を共培養したものをMitis-Salivalius Bacitracin (MSB) 寒天培地に播種したところ、ミュータンスレンサ球菌単独培養やミュータンスレンサ球菌とL. delbrueckiiを共培養したものをMSB寒天培地へ播種した場合と比較して、形成されたコロニーが大きく減少した。これらのことから、L. delbrueckiiおよびピロリ菌と共に培養することで増殖が抑制される可能性が示された。
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