研究課題/領域番号 |
21K21048
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
蓑輪 映里佳 北海道医療大学, 歯学部, 任期制助手 (40751160)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | フェニトイン / 薬物性歯肉増殖症 / カルシウム / イメージング |
研究実績の概要 |
PHTによる薬物性歯肉増殖症(Drug-induced gingival overgrowth:DIGO)は、服用者の約50%に発症するが、その詳細は明らかではない。申請者はこれまでに、PHTがHGFにおけるATPやヒスタミンによるCa2+応答を増強することを見出し、PHTが炎症性サイトカインや成長因子で生じるCa2+応答を増強する可能性が明らかになった。そこで本研究は、DIGOを起こす薬物と生理活性物質との相互作用によって発生するCa2+シグナルの解明と、それによる遺伝子発現の制御機構の解明を目的とする。 本研究は、DIGOを起こす薬物と生理活性物質との相互作用によって発生するCa2+シグナルの解明と、それによる遺伝子発現の制御機構の解明を目的としている。具体的には、PHTと生理活性物質との相互作用による①[Ca2+]iの制御機構、②遺伝子発現への影響、③遺伝子発現におけるCa2+シグナルの役割を解明する。 現在①[Ca2+]iの制御機構については、Fura-2を使ったライブセルイメージング解析を用いて、PHTによる[Ca2+]iの制御機構の仕組みをさらに詳しく解析している。特に、HGFの主要なCa2+排出機構であるNa+/Ca2+交換体(NCX)の中でもK+依存性NCX(NCKX)に着目し、HGFにおけるPHTによるNa+およびCa2+動態を解析中である。 ②③については、PHT、ヒスタミンおよびカルシウム動態に作用する薬剤による処理を行いながらHGFの培養し、NGSを用いた網羅的遺伝子発現解析によるPHTの単独およびヒスタミンとの相互作用によって変化する遺伝子を解析中である。現在は、Ca2+キレート剤であるBAPTAおよびストア作動性Ca2+チャネル阻害薬であるSynta66を用いて、ヒスタミンやPHTとの相互作用、およびCa2+シグナルとの関連性を解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①現在行っているNGSによる遺伝子解析の発注先が中国国内である。中国におけるコロナウイルス感染拡大によって、NGS解析を発注しているラボもロックダウンしてしまったため、通常よりも解析に時間がかかると考えられる。感染が収束傾向にあることから、今後はスムーズに解析を進められるのではないかと予想しているが、現段階で結果取得の目処が立っていない。経由業者とも連携を取りながら早急に対応してもらうよう推し進めていく予定である。 ②本研究結果の一部を報告するため、昨年度は英文投稿の準備を行った。論文の修正、再投稿などに時間を要してしまったが、現在行っている追加実験の提出を持って見通しは立つと考えている。 ③昨年度から本学の教職員となったため、臨床、教育に費やす時間が増え、研究に充てる時間が減ってしまった。前研究で主体となった手技を用いた実験を優先するなどし、今後はより効率的に研究を進めていく必要があると考える。
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今後の研究の推進方策 |
現在進行中であるNGSを用いた網羅的遺伝子解析によって、ヒスタミンとPHTの単独および相互作用によって変化する遺伝子を明らかにし、新しいDIGE関連遺伝子を同定する。網羅的解析によって得られた遺伝子を標的とし、Ca2+シグナルおよび歯肉増殖に関連するパスウェイを明らかにしたいと考えている。並行して、Western blotting法を使ったMAPK系の解析によってCa2+シグナルの役割とPHTの作用を明らかにする。また、歯肉増殖に関連する遺伝子としてコラーゲンおよびコラーゲン分解酵素MMPs、MMPs阻害酵素TIMPsのmRNA発現をRT-PCRや定量PCRで解析する。 また、PHTによるHGFにおけるCa2+排出抑制機構の仕組みをより詳しく解明するため、Ca2+イメージング法を用いてHGFのCa2+シグナルおよびPHTによるCa2+濃度変化に対するNCX阻害剤(KB-R7943)およびNCKX阻害剤(KB-R7943 MESYLATE)の作用から、PHTの作用点およびHGFの[Ca2+]i上昇におけるNCXおよびNCKXの役割を明らかにする。 本研究は、PHTのCa2+排出の抑制によるCa2+シグナルの増強作用という新しい知見に基づいて、炎症性サイトカインや成長因子とPHTの相互作用によるCa2+応答と遺伝子発現を解析する新規的な研究である。Ca2+排出の抑制は、様々な刺激によるCa2+応答を増強するため、単独ではCa2+応答を起こさない弱い刺激に対して強い増強作用を示すことになる。よって、低濃度のサイトカインや成長因子によるCa2+シグナルを増強する可能性があるため、ATPやヒスタミンを使ったこれまでの研究を発展させて、IL-1、TGF-β、プロスタグランジンなどの生理活性物質によるHGFのCa2+応答とそれらに対するPHTの作用を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度の科研費交付が決定が秋頃だったため、1年目の研究期間が実質半年であった。初年度の後半は本研究に関する論文投稿の準備中であったため、論文作成が中心となり、研究に充てる時間は少なかった。また、論文投稿に時間を要したため翻訳や投稿に関する費用は2 年目以降に生じると予測された。 また、当初の計画から1サンプルの解析が高額である次世代シークエンサーによる網羅的遺伝子解析を予定していた。初年度で新たに購入した細胞の培養条件が安定した後に網羅的遺伝子解析に移行する予定であったため、初年度の予算を次年度に計上することとした。
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