研究課題/領域番号 |
21K21058
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
日吉 巧 新潟大学, 医歯学系, 特任助教 (80911437)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 歯周炎 / 好中球エラスターゼ / ヒト歯肉上皮細胞 / 細胞接着分子 / 歯肉上皮バリア / 歯周炎マウスモデル |
研究実績の概要 |
歯周炎は,好中球の過剰な集積を特徴とする炎症性疾患である.好中球に内在するプロテアーゼであるエラスターゼは,歯周炎患者の歯肉溝滲出液中で増加し,歯周炎の重症化に働く可能性が報告されている.長年にわたり,エラスターゼと歯周炎の重症化との関係が研究されてきたが,その詳細なメカニズムは未だ不明である.申請者はこれまでに,エラスターゼが宿主の生体分子を分解することで,炎症性疾患の重症化を誘導することを解明した.さらに,好中球から漏出したエラスターゼが,歯肉上皮細胞に傷害作用を示すというin vitroでの知見を得た.このことから,本申請研究では,エラスターゼによる歯肉上皮バリア傷害作用による歯周炎重症化機序に着目して研究を開始した. エラスターゼは,歯肉上皮バリアを形成する細胞接着分子(デスモグレイン1,オクルーディンおよびEーカドヘリン)を分解することを明らかにした.また,三次元ヒト歯肉上皮細胞モデルにエラスターゼを添加すると,歯肉上皮細胞に局在する細胞接着分子が分解され,細胞層が剥離する像を得られた.さらに,エラスターゼを添加した歯肉上皮細胞層において,歯周病原細菌および病原因子の細胞層透過率が上昇した.これらの知見から,エラスターゼは,歯肉上皮バリア傷害作用を介して歯周炎を重症化する可能性が示唆された.さらに,健常なマウスと比較して,歯牙結紮により歯周炎を誘導したマウスモデルの歯肉では,エラスターゼ活性が上昇していることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
エラスターゼによる歯周炎重症化に係る分子およびその機序を同定し,初年度の目標を達成した.また,前倒しで行ったin vivo研究においても,歯周炎マウスモデルにおいてエラスターゼ活性が上昇することを明らかにした.以上のことから,当初の計画以上に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
歯周炎マウスモデルを用いて,エラスターゼによる歯周炎重症化機序の解明およびエラスターゼを標的とした新規歯周炎治療の探索を行う.具体的には,歯周炎マウスモデルにおける好中球とエラスターゼの局在を試験する.続いて,本邦で臨床的に用いられているエラスターゼ阻害剤を歯周炎マウスモデルの歯肉に局所投与し,歯槽骨吸収量や歯肉中炎症性サイトカイン転写活性等を計測することで,エラスターゼの阻害による歯周炎重症化抑制作用を検証する.同時に,結紮絹糸中の細菌数を定量し,エラスターゼ阻害剤の投与が口腔内細菌数に与える影響を解析する.また,歯周炎マウスモデルの歯肉中に認めた活性と同等のエラスターゼ活性が,歯周病原細菌に対し殺菌活性を示すがどうかを試験する.以上の試験を複数回実施し,エラスターゼ阻害剤による歯周炎抑制作用を総合的に解析する.中長期的にはエラスターゼ阻害剤による臨床的な歯周炎治療法の開発を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
本格的なマウス実験を実施するための資金が不足していたため,初年度においてはin vitro研究を主とした研究を実施し,次年度に繰り越した残金と合わせ,マウスを用いた研究を実施することとした.
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