歯周炎は、歯肉への歯周病原細菌の感染と免疫応答の結果生じる歯槽骨の破壊を伴う口腔内疾患であり、歯牙脱落の最大の原因である。そこで本研究では、現在の医療では再生困難な歯周炎由来の骨欠損にも有効な新規治療法の開発を目的とした。 重度の骨欠損を再生するために、本研究では、間葉系幹細胞と細胞自身が産生した細胞外基質によって構成された細胞集塊C-MSCsに、軟骨分化誘導を施すことで骨再生能の発揮を期待した。また将来の臨床応用を想定して、C-MSCsの培養には異種動物由来成分を含まない培地を使用した。 まず2021年度ではマウスの頭蓋冠1.6mm骨欠損モデルを用いて移植実験を行い、移植後3・7・14日の短期および4・8・12週の長期の観察によって、軟骨誘導C-MSCsの骨再生能とそのメカニズムを解明した。続いて2022年度では、マウス頭蓋冠4.0mm骨欠損モデルへ軟骨誘導C-MSCsを移植することで、重度の骨欠損に対する骨再生効果を評価した。 大規模骨欠損への移植実験では、移植後4・8・12週で回収し、CT画像解析および組織学的解析を行った。それにより、軟骨誘導C-MSCs移植が大規模な治癒困難な骨欠損部の再生にも効果的であることが明らかとなった。また解析の結果、移植4・8週で細胞塊内で石灰化物の沈着を認め、12週目で周囲骨からの旺盛な骨添加が観察された。すなわち、C-MSCs移植による治癒過程が、移植した細胞塊の石灰化と周囲組織からの骨再生誘導の2段階で構成されていることが示唆された。 本研究により、軟骨誘導C-MSCs移植が重度骨欠損の再生に有用であることが示され、将来的に歯周炎で失った骨も回復できる可能性が示唆された。
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