研究課題/領域番号 |
21K21068
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
川端 由子 九州大学, 歯学研究院, 助教 (40906830)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 味覚 / 骨粗鬆症 / OVX |
研究実績の概要 |
骨粗鬆症の発症には、加齢や女性ホルモンの減少に加え、普段の食習慣や栄養バランスの乱れが深く関与しているが、骨粗鬆症の成因と栄養摂取の関連性には未だ不明な点が多い。味覚は生理的な栄養・ミネラル需要を反映して動的な調節を受け、その時身体が必要な栄養素を効率的に取り込むことで生体恒常性の維持に寄与している。骨粗鬆症に伴う全身的な骨カルシウム (Ca)代謝異常に伴い、末梢の栄養・ミネラルセンシングの変調をきたし、味覚に影響を及ぼすことが強く推定される。 そこで申請者は、骨粗鬆症と味覚機能との関連を解明する上で、Ca味の受容体であるCa2+感知受容体CaSR (Ca2+-sensing receptor)を病因分子候補として想定した。 CaSRは味細胞に存在し、Ca、アミノ酸 (うま味等)、NaCl (塩味)の味覚に関与することが報告されている。さらにCaSRには、Ca代謝異常症などに関連する遺伝子多型が数多く存在することや、疾患に起因した発現量のフィードバック調節が生じることからも、CaSRが骨粗鬆症における味覚機能の変化に関与する分子であろうと推察した。本研究では、骨粗鬆症が味細胞のCaSRの発現量や機能に影響を及ぼし、うま味や塩味感受性を鈍化させることで、Ca摂取量を低下させ、更なる骨粗鬆症の病態悪化を招くのではないかと予想し、その実態の解明を目指す。 まず、骨粗鬆症 (卵巣摘出 (OVX)による骨量減少)モデルマウスを作製し、味行動試験による味覚機能の評価を行った。その結果、OVXマウスのうま味および塩味溶液に対する味行動に変化は見られなかった。一方で、Ca味に対する忌避応答は、偽手術マウスと比較して、OVXマウスにおいて有意に増強した。以上のことから、骨粗鬆症マウスは、Caの味覚を強く忌避することで、Ca摂取量が低下し、更なる骨粗鬆症の悪化を生じることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルス感染症の影響に伴い、味蕾幹細胞の三次元培養モデル「味蕾オルガノイド」に使用する培養試薬の供給の目処が立っておらず、研究計画に記載した味細胞応答による機能解析が遅れている。しかし、マウス個体を用いた行動応答および神経応答による機能解析から先に研究を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
OVXマウスにおけるCa味に対する忌避性の増強について、その発症メカニズムを詳細に検証していく。現在、味神経応答記録により、舌前方を支配する味神経である鼓索神経、および舌後方を支配する舌咽神経の味溶液に対する応答について解析中である。また今後、CaSRやCa代謝関連分子の味覚器における遺伝子発現解析 (qPCR)およびタンパク質発現解析 (免疫組織化学染色)を行い、OVXマウスの味覚異常に関与する分子実体を明らかにする予定である。 さらに、骨粗鬆症は多因子疾患であり、その病因には女性ホルモン分泌、食事・運動などの生活習慣、および骨代謝調節等が関与する。したがって、骨粗鬆症と味覚との関連を理解するためには、これらの相関関係を疫学的に探索する必要があると考えている。申請者らは、青森県弘前市岩木地区を対象とした岩木プロジェクト健診とその関連健診を合わせた1千人規模の住民健診に参加し、全口腔法味覚検査を実施して、超多項目の検査データ (食事習慣・血液および尿 (女性ホルモンおよび骨代謝マーカー)・骨密度等)と味覚閾値との相関解析を進めている。将来的には、マウスモデルを用いた基礎的研究とヒトによる疫学的研究から得た成果を組み合わせて考察し、味覚検査による骨粗鬆症の早期発見や、治療への臨床応用につなげていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:新型コロナウィルスの影響により、オルガノイド培養試薬の供給が停止したため。 使用計画:概ね順調に進んでいるので適宜執行する。
|