研究課題
う蝕除去や歯の破折により原生象牙質が欠失し、歯髄組織が露出した場合、それらを保存する目的で直接覆髄処置が行われる。しかしながら、直接覆髄材料として臨床応用されている水酸化カルシウム製剤やMTAセメントでは、十分量の修復象牙質形成に時間を要することや、形成後の修復象牙質に空隙が生じることなどが問題として挙げられる。申請者はこれまでにsecreted Frizzled-related protein 1 (sFRP1) タンパクが歯髄細胞の象牙芽細胞分化促進を介して、露髄部における修復象牙質形成を誘導することを明らかにしている。タンパクは生体内に存在しており、前述の直接覆髄材料と比較して安全性が高いことがメリットとして挙げられる。しかしタンパクには高い合成コストやロット間での機能のばらつきなどといった問題がある。そこで本研究では、安定したものをより安価に合成することが出来るペプチドに着目した。sFRP1のアミノ酸情報を基に複数のペプチドを合成し、in vitroでの歯髄細胞の象牙芽細胞様分化誘導及びin vivoでの修復象牙質形成を比較することで、原生象牙質に類似した修復象牙質形成を効果的に誘導する、sFRP1由来機能性ペプチドを創出することが本研究の目的である。本研究結果は「象牙質形成(Dentinogenesis)を基盤とする革新的な直接覆髄材料の開発」へと発展することが期待される。
3: やや遅れている
まずsFRP1タンパクの構造についてこれまでの論文報告を参考に把握した。sFRP1タンパクはそれそれWntシグナルとの関与が報告されているCRDとNTRの2つのドメインをもつため、それらを含むペプチドの構造を決定した。本年度はin vitroでの歯髄細胞を使用した象牙芽細胞様分化誘導実験を開始する予定であったが、sFRP1構成ペプチドはカタログ製品化がなされていなかったため、カスタムペプチド合成が可能な外部業者を数社ピックアップするにとどまった。現在ペプチド合成に向けて、業者と検討を行っている。
今後は決定したペプチドを外部業者へ委託して合成し、それらを用いて歯髄細胞の象牙芽細胞様分化誘導実験をin vitroより開始する。in vitroにおける象牙芽細胞様分化の促進が確認されたら、in vivoにおいてラット直接覆髄モデルへと応用し、生体内での修復象牙質形成の解析を予定している。またそれらの結果を学会発表や論文発表を通じて公表していく予定である。
現在までは、申請者が所属する研究室が以前より保有している試薬や機材を中心に使用した。また新たに使用するペプチドは購入前であるため、次年度の使用額が大きくなる予定である。さらにコロナウイルス感染症の影響により学会が現地開催されず、旅費を使用しなかったことも理由の一つである。
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Cells
巻: 10 ページ: -
10.3390/cells10092491