口腔癌は早期に顎骨への浸潤を認めるが、癌細胞がどのように骨基質内へ浸潤しやすい環境を整えているかは未だ完全には確明されていない。本研究では、新たに同定した破骨細胞分化に寄与する分泌型膜タンパク質(Flrt2)が口腔癌細胞及び骨代謝細胞でどのように機能しているかを増殖・分化・遊走・浸潤能の解析によって調査する。さらに、共細胞培養実験とマウスへの細胞移植実験を用いて癌細胞と骨代謝細胞(破骨細胞及び骨芽細胞)間の分泌型膜タンパク質を介した相互作用について検証することにより、癌の骨浸潤・転移マーカー及び分子標的治療薬の候補としての可能性を検討する。 正常ヒト口腔扁平上皮細胞株とヒト扁平上皮癌細胞株腫瘍部位でFlrt2の発現が癌細胞株で上昇していることを確認した。また、骨芽細胞においては、分化誘導実験においてマウス頭蓋骨由来骨芽細胞前駆細胞と比べ分化後でFlrt2及びその受容体であるUnc5bの発現低下が認められた。また、腫瘍組織検体を用いたRNAシーケンスでは、脈管浸潤を示すグループがクラスターを作り、特徴的な遺伝子発現を示し発現に変化を認めた遺伝子の解析から、FLRT2の有意な発現増加が確認された。これにより、FLRT2が局所浸潤及び転移関連因子の有力な候補であることが示されたので、数種の口腔扁平上皮癌細胞株内における発現を再検した結果、細胞株ごとに大きく発現が異なる事、分泌型タンパク質の量も有意に異なる事が明らかとなった。 骨芽細胞株MC3T3E1及び癌細胞株SKN3にFLRT2を過剰発現させ細胞動態を検証した結果、骨芽細胞では増殖および分化の減少を認め、癌細胞では増殖の亢進を認めた。これまでの結果より、FLRT2は破骨細胞では促進的に、骨芽細胞では抑制的に作用することが示された。さらに癌細胞では増殖に寄与することが示された。
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