小児期の強制的な治療などの苦痛体験は,歯科恐怖症の既往歴で多くみられる。しかし,歯科恐怖を大幅に軽減できる意識下の治療法は未だ確立されていない。歯科恐怖症の患者は恐怖心により歯科治療が困難となり,症状が悪化した状態で初めて歯科医院を訪れることから,生活のQOLの低下とともに,口腔内の健康が著しく損なわれている可能性が報告されている。記憶形成や情動への関与には海馬や扁桃体で多く認められ,島皮質は,疼痛閾値の決定に重要であるだけでなく,不安や,恐怖記憶の形成にも関与している。中脳水道灰白質は,情動の中枢とされるこれらの大脳辺縁系から,直接あるいは視床下部を介して入力を受け,疼痛抑制作用の他に不安・恐怖などの情動行動にも寄与していると考えられている。そこで,中脳水道灰白質に着目し,中脳水道灰白質に投射するストレス関連脳領域を同定し,中脳水道灰白質ニューロンに対するストレス関連領域からの投射によるシナプス応答を解析することによって,中脳水道灰白質のストレスによる痛み調節のメカニズムを明らかにすることを目的として実験を行った。まず,中脳水道灰白質におけるニューロンの形態や細胞学的特徴を把握するために免疫組織学的解析を行った。手順としては,まず,VGAT-Venus-ChAT-TdTomatoトランスジェニックラットの脳スライス標本を作製し,ホールセル記録の際に使用する電極内液にバイオサイチンを添加して細胞をラベルする。続いて,ABC法やDABの発色を用いてバイオサイチンで標識した細胞を可視化し,ニューロントレーシングを行った。腹外側部中脳水道灰白質に存在するニューロンタイプは,異なる膜特性を有するコリン作動性ニューロンや抑制性ニューロン、またどちらにも分類されないニューロンの3種類が存在していることが分かった。
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