研究課題/領域番号 |
21K21092
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
小野 龍太郎 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80908004)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 概日リズム障害 / 歯周疾患 / リバーストランスレーショナル研究 / シフトワークモデル / マイクロCT |
研究実績の概要 |
24時間社会がもたらす「体内時計と光環境の時間的不適合」は、全身の様々な生理機能に悪影響を及ぼす。歯科口腔領域においても、シフトワーカー(交代制勤務者)で歯周疾患の罹患率が高いことが疫学研究で示されているが、それを裏付ける実験的エビデンスは少ない。申請者は、概日リズムの乱れと歯周炎発症の因果関係を解明するためのリバーストランスレーショナル研究として、京都府立医科大学統合生理学教室の八木田和弘教授の研究グループが確立した光のON/OFF操作によって概日リズムを撹乱させた条件下での長期前向き観察研究「マウス・コホート研究モデル」を用いた。 今年度はまず、マイクロCTを用いたマウス歯槽骨の加齢性変化の定量的評価に取り組み、雄性C57BL/6マウスの下顎臼歯の歯槽骨吸収が、生後1年半~2年の間で急激に進行し、最終的には歯根全体の40%近くまで及ぶことを明らかにした(Ono et al, J.Oral Biosci., 2021)。得られた実験データを基に、マウス・コホート研究モデルでの予備的検討を行ったところ、10ヶ月間にわたり光周期の撹乱条件下で飼育したマウス(Advance群)では、通常の明暗周期条件(LD群)と比べて歯槽骨吸収が有意に増加していた。一方で、マウスの寿命に近い24ヶ月齢になると明らかな差は確認できなかった。 以上のように、概日リズム撹乱が歯周疾患を引き起こす可能性を動物実験レベルでも確認できたため、今年度は使用するマウスの数を増やし、病理組織学的アプローチやメタゲノム解析を加えた体系的な研究を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は、概日リズム撹乱が歯周疾患を引き起こす可能性を動物実験レベルで確認し、また加齢性変化に関する実験結果からマウス・コホート研究モデルで使用するマウスの週齢の決定につながる精度の高いデータを得ることができた。以上が、本研究課題が「おおむね順調に進展している」と判断した理由である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた研究成果より、生後約1年齢を過ぎた頃から加齢による要因が大きくなり、概日リズム撹乱がマウス口腔領域に及ぼす影響を純粋に評価することが難しくなると推測された。従って、当初の想定よりも若いマウスを観察対象とした体系的な研究が新たに必要と判断し、具体的な検討項目にも下記の通り微修正を加えた。 (1)口腔内フローラのメタゲノム解析:各条件群のマウス口腔内から採取したプラークよりDNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いて口腔内細菌叢のメタゲノム解析を行う。得られた細菌叢データから歯周炎発症・進行の契機となる細菌学的特徴を調べる。この操作は飼育期間中に複数回実施し、概日リズムを撹乱させた期間の長さによる細菌組成の違いについても検討する。 (2)マイクロCTによる歯槽骨吸収量の定量解析:目的の週齢に到達したマウスを吸入麻酔下で屠殺し、マイクロCTを用いて下顎第二臼歯周辺の歯槽骨を撮影する。画像解析ソフトにて処理することで歯槽骨吸収量を定量化する。また、飼育条件による三次元的な骨微細構造、骨密度や骨質の違いについても合わせて評価する。 (3)歯周組織の病理組織学的評価:マイクロCT撮影を行った反対側の下顎骨検体より歯周組織の脱灰薄切標本を作製する。H-E染色を行った後、光学顕微鏡にて第二臼歯周囲の歯肉上皮中を占める炎症細胞の浸潤数や存在範囲を定量化する。また、破骨細胞のマーカー酵素であるTRAPで染色し、骨吸収部位に存在するTRAP陽性細胞数を測定すると共に、マイクロCTで観察された歯槽骨吸収像との相関性も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、概日リズム撹乱と歯周炎発症の因果関係を検討するにあたり生後1年齢程度の高齢マウスを使用する予定であったが、パイロット研究の段階で想定よりも早い時期にマウス口腔内に何らかの影響が及んでいる可能性が示唆された。従って、40匹程度の若齢マウスを実験計画に新規導入する必要があると判断したが、データ解析が完了したのが2021年3月上旬であり、繰越申請が間に合わなかったため今回申請を行うに至った。
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