研究実績の概要 |
24時間社会がもたらす「体内時計と光環境の時間的不適合」は、全身の様々な生理機能に悪影響を及ぼす。歯科口腔領域においても、シフトワーカー(交代制勤務者)で歯周疾患の罹患率が高いことが疫学研究で明らかにされているが、それを裏付ける実験的エビデンスは少ない。申請者は、概日リズムの乱れと歯周炎発症の因果関係を解明するためのリバーストランスレーショナル研究として、京都府立医科大学統合生理学教室が確立した光のON/OFF操作によって概日リズムを撹乱させた条件下での長期前向き観察研究「マウス・コホート研究モデル」を用いた。 研究開始年度の2021年度は、マイクロCTを用いたマウス歯槽骨の加齢性変化の定量化に取り組み、通常の明暗周期条件(LD群)で飼育した雄性C57BL/6マウスの下顎第二臼歯の歯槽骨吸収が生後1年半~2年の間で急激に進行した結果、最終的に歯根全体の40%近くまで及ぶことを明らかにした(Ono et al, J.Oral.BioSci., 2021)。 2022年度は、概日リズム撹乱が歯周組織に与える影響について検討を加えた。光周期の撹乱条件下で8ヶ月間飼育したマウス(Advance群)では、LD群と比べて歯槽骨吸収量が増加していたが、歯槽頂部の骨密度に変化はなかった。顎骨を含む歯周組織の組織切片を作成しH-E染色を行なったところ、Advance群の歯槽骨表面は粗造化し、歯槽頂部には骨吸収を伴う不整な形態が観察された。また、歯肉結合組織の炎症細胞浸潤、根間中隔表層の骨吸収窩におけるTRAP陽性細胞はAdvance群でのみ確認できた。これらの結果は、概日リズム撹乱が歯周疾患を引き起こす可能性を実験動物レベルで再現できたことを示唆すると考えられ、今後は使用するマウスの数を増やし、口腔内細菌叢のメタゲノム解析などを加えた体系的な研究を計画している。
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