本研究では、治療中の症状の安定した統合失調症者と健常者の運転スキルと脳活動を、機能的近赤外線分光法(fNIRS)と運転シミュレーターを用いて比較した。20人の統合失調症者と20人の健常者が、速度の異なるブレーキタスク、カーブ運転タスクを実施した。結果、これらのタスクのパフォーマンスに有意な差は見られなかった。一方、脳活動については、100キロ走行時の急ブレーキタスクで、左右の前頭前野の脳活動に有意な差が観察された。50kmブレーキタスク、カーブ運転タスクでは有意差が認められなかった。さらに、40名の統合失調症者の脳活動と運転技能の相関を調査したところ、脳活動はブレーキ反応との相関を示していたことが明らかになった。 統合失調症は、道路交通法により、運転が制限される可能性がある疾患の一つとされているが、統合失調症者が事故を起こしやすいという医学的根拠は乏しいままである。①急ブレーキタスクやハンドル操作など日常の運転で直面する課題への対応能力が示されたこと、②高速での急ブレーキなど認知的に要求の高い状況下で通常より多くの脳活動を必要とする可能性があるが、適切なサポートがあれば、治療中の症状の安定した統合失調症者であれば安全に運転できる可能性が示唆された。さらに、③客観的な自動車運転評価に向けて、前頭葉の脳活動が客観的な運転評価に役立つ可能性がある。本研究は、精神障がい者の能力や可能性に対する社会的な認識を改善し、より包括的な支援策の開発に貢献することが期待される。特に、本研究の成果は、適切な運転評価の実施や支援システム構築を促進するための基礎データとなりえる。
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