本年度は、ルワンダ農村部における妊婦の向精神物質摂取状況や心理的ストレス因子の保有状況と、実際の出生性比との関連をまとめた論文を学術雑誌に投稿し、現在査読を受けている。この調査は、ルワンダ西部ルシジ地区のミビリジ病院で実施してきたものであり、通院若しくは入院している妊婦を対象として行った。質問紙調査では基本的な属性に加え、妊娠前、妊娠中の向精神物質摂取状況を聞き取りした。妊娠中に回答した180名のうち喫煙経験がある妊婦は1名のみで、家庭内で受動喫煙している妊婦の割合は約12%であった。アルコールについては妊娠前、妊娠中どちらでも30%以上の妊婦が摂取しており、教育をしていく必要があることが分かった。薬物は妊娠前(生涯)の経験率が約40%であるのに対し、妊娠中は6%と低い結果となった。アルコールと比較すると薬物摂取の方が妊娠への影響を自覚している妊婦が多い傾向にあった。また、心理的ストレス因子について聞き取りをした。予期せぬ妊娠と回答した妊婦は約37%と高く鬱症状や不安を感じる妊婦も約22%いた。こうした向精神物質や心理的ストレス因子と出生性比との関連を解析したところ、薬物摂取経験がある妊婦と鬱症状若しくは不安がある妊婦において、有意な出生性比の低下が観察された。先行研究では妊婦体内で炎症反応が促進される状態にある様々な妊婦で出生性比が低下している事象が報告されており、本研究でも薬物摂取や心理的ストレスが妊婦体内で炎症の促進を介して男児出生割合を低下させていた可能性がある。また、ルワンダ国内のPM2.5が妊娠出産に与える影響にも着目しており、予備調査として日本国内における大気汚染物質と出生性比との関連性を公表されているデータのみを用いて解析し報告した。今後も様々な視点からヒトの出生性比低下を引き起こす事象やそのメカニズムについて検討を重ねていく。
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