本研究の目的は、学童後期時代に阪神・淡路大震災(1995年)で被災した人々を対象に、他者に震災体験を語った経験の有無(実態)と今後他者に震災体験を語る意思があるか(ニーズ)を全国的に調査することであった。研究方法はオンラインによる無記名自記式質問紙調査とした。2021年度にデータ収集実施、2022年度に分析、結果の公表を実施した。 調査の結果、震災から1年以内に震災を経験した同世代の人々と震災体験について話して、身近な人に震災を知ってもらうことができた、同じ気持ちでいる人がいるとわかったことが自分にとって良かったと感じている傾向があること、今後震災体験を共有しても良いと思う相手も震災を経験した同世代の人々で、専門職との共有のニーズは低い傾向があることが明らかになった。一方で、これまで震災体験を話して良かったと感じたことがない、そもそも話したことがない、今後どのような場でも語りたくないという人が一定の割合で存在している実態も明らかとなった。語りたくない理由は、「自分より被害が大きかった人たちへの配慮として話さない」というものを筆頭に多様であった。 被災児童が、震災直後だけでなく成人期になっても、同じような体験をした仲間同士で振り返って話せるような環境を整えていくことが、当該の人々の自己回復を支えていく支援となることが示唆された反面、同じような程度の衝撃を受けたと思われる人々においても、語るもしくは語らないの理由は人によって様々であり、一人の人間のなかでも複数の理由があることを理解して、慎重に関わっていく必要があるという示唆も得られた。これらは、当事者が安心して体験を物語化できる環境、すなわち、かつての被災児童たちへの看護職による心理社会的ケアシステム構築の一助となると考える。
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