研究課題
本邦における児童虐待は、社会問題となっており、虐待被害の新たな指標が社会的に求められている。近年、ヒトの精神神経疾患に関わる遺伝子群のメチル化変化が児童虐待被害と関連することが報告された。この報告を発展させ、本研究ではマウスを用いて虐待ストレスによるDNAメチル化率を調べた。マウスの母子分離処置は、児童虐待ストレスとメチル化変化との連関を検証するために有用な実験モデルと考えられていることから、本研究では、マウスの母子分離処置がヒト精神神経疾患関連遺伝子のマウスホモログであるMyt1l、Grin1およびSlc6a4のメチル化率および転写産物量に与える影響を明らかにすることを目的とした。本実験の中心となるマウスにおける母子分離処置の手法を講座内にて確立した。すなわち、C57BL/6J妊娠マウスの同腹仔について、半数の子マウスを常に母と同居させた一方で、残る半数を出生日翌日から毎日2時間母マウスとは異なるケージで飼育した。子マウスは、生後2週間まで飼育した後に、扁桃体、胸腺および末梢血を採材した。組織間の比較に先立って、扁桃体に由来するDNAおよびmRNAを用いて、メチル化感受性高解像度融解分析法およびRT-qPCR法により、メチル化率 (Df値) および転写産物量を測定した。Myt1l、Grin1およびSlc6a4の転写産物量は、両群間において有意差は認められなかった。その一方で、3遺伝子のうちMyt1lのDf値は、対照群 (-26.7±0.1) と比較して実験群 (-25.3±0.4) で有意に高かった (p < 0.05)。以上のように、マウスにおいてもMyt1l遺伝子におけるメチル化変化が認められた。本研究での成果は、Myt1l遺伝子を中心とした母子分離処置時間や飼育環境とメチル化率との相関性や、メチル化率の上昇の分子生物学的な意義の解明へとつながるものと考えられた。
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