研究課題/領域番号 |
21K21129
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研究機関 | 公益財団法人医療科学研究所 |
研究代表者 |
森島 遼 公益財団法人医療科学研究所, 研究員育成委員会, 研究員 (30911771)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | COVID-19 / 思春期 / メンタルヘルス / 疫学調査 |
研究実績の概要 |
2019年の新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019, COVID-19)のパンデミック発生から5か月以後、思春期の自殺率は前年比約150%増加していることが報告された。COVID-19は収束の兆しが見えず、若年世代のメンタルヘルス不調(=精神的不健康)への支援は長期的視野を要する。また、パンデミック以前に有効だった支援策が、生活様式の変化に伴い、十分な効果を発揮していない可能性がある。本研究では、一般の中学・高校と連携して思春期の生徒を長期追跡する大規模疫学調査を実施し、精神的不健康の有病率と予防/危険因子を明らかにする。 本研究では、思春期の子どもを長期追跡し、精神的不健康の有病率と予防/危険因子(睡眠・運動習慣、対人関係、都市部での生活、等)を明らかにする。このために、一般の中学・高校と連携して学校集団単位の無記名式疫学調査(School Adolescent Behaviour and Care study, S-ABC)と生徒個人単位の記名式疫学調査(Longitudinal design for school Adolescent Behaviour and Care study, L-ABC)を行う。本研究は2023年度まで行うことを目標としているが、本申請では2021年度と2022年度の調査を対象とした。また、社会活動として学校現場への調査結果をフィードバックし、東京大学医学部附属病院精神神経科スタッフによるメンタルヘルスの出前授業も実施してきた。さらに、学校現場への啓発活動を目的としたウェブサイト(サポティーン:https://supporteen.jp/)を開設し、調査結果を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
S-ABCは、無記名式調査票により実施し、2021年度には参加申出のあった7761名のうち、6896名の中学生・高校生から回答を得た(有効回答率89%)。調査実施はクラス単位で行われ、教員からも参加クラスの背景情報を聴取する目的で教員用調査票への回答を求めた。アウトリーチ活動として、調査結果は各校へのフィードバックと同時に、埼玉私立中高協会の教員研修会やホームページ等で結果を公表した。L-ABCは、記名式調査票により実施し、2021年度には約800名の中学生・高校生に対してアンケート調査を実施した。アウトリーチ活動として、調査結果は各校へのフィードバックと同時に、こころの健康に関する出前授業を行った。 サンプルサイズが大きく全体の傾向を反映していると考えられるS-ABCの推計から、抑うつ・不安は、2020年度は18.9%、2021年度は21.7%の生徒にみられた。また、幻聴体験は、2020年度は5.8%、2021年度は7.3%の生徒にみられた。これらの結果から、COVID-19発生後の精神的不健康は増加傾向にあることが伺えるが、さらなる調査の実施により長期的な経時変化を調べる必要がある。 また、2020年度に得ていたデータを分析し、全国一斉臨時休校期間中のオンライン授業と抑うつ・不安や幻聴体験との関連を調べた。この結果、オンライン授業の実施は抑うつ・不安の報告率低減と関連したが、幻聴体験とは関連しないことが示された。つまり、全国一斉臨時休校期間中のオンライン授業は、一部の精神的不健康(抑うつ・不安)に対して、予防因子となり得ることが示唆された。この結果は、国際学術雑誌Psychiatry and Clinical Neurosciences Reportsで2022年5月7日にアクセプトされた。
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今後の研究の推進方策 |
現在、2022年度のS-ABCおよびL-ABCの実施準備をすすめている。S-ABCは、約6000名より回答を得る見込みである。L-ABCは、約1000名より回答を得る見込みである。これらの回答から、2022年度の精神的不健康(抑うつ・不安、幻聴体験)も調べ、COVID-19発生から3年間(2020~2022年)の精神的不健康の有病率の経時変化を検証する。また、COVID-19以前の知見を踏まえ、予防/危険因子候補(睡眠・運動習慣、対人関係、都市部での生活、等)との関連を調べる。これらにより、COVID-19流行下の思春期の精神的不健康に関する疫学的エビデンスを得て、新しい生活様式の中で有効な支援策への提言に繋げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部調査費用の削減ができたことに加え、英文校正費や文献購入費等が2021年度は不要となり、次年度使用額が生じた。2022年度には英文校正費や文献購入費等に大きく充当する予定である。また、2021年度の調査参加校数が見込みを大きく上回り目標超過となったが、2022年度にはさらに調査参加校が増えることも予想される。このため、調査実施にも充当する予定である。
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