研究実績の概要 |
本研究は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行禍における肝移植・腎移植後平均約6年の患者204名(男性98名,女性106名)を対象に、抑うつ、感染予防行動と認識、Quality of life(QOL)を明らかにし、抑うつとの関連を探索することを目的とした。 腎移植,肝移植後患者の感染予防行動と認識は,先行研究を参考にして自記式質問紙で評価した。抑うつはPatients Health Questionnaire-9 (PHQ-9)を用いて,抑うつの有無、症状レベルを測定した。QOLは,The Eight-item Short-Form Health Survey(SF-8)を用いてPhysical Component Summary(PCS)とMental Component Summary(MCS)を評価した。 対象者の平均年齢は59歳で、移植後平均年数は6.6年であった。患者の約30%は抑うつを認めていたが,中等度以上の抑うつ症状がある患者は8.3%であった。多変量解析の結果、糖尿病、COVID-19に関する十分な情報がないこと、病院で感染することへの過度な恐怖は抑うつの関連要因であった。また、抑うつはMCSの低下の独立した関連要因であることも示された。対象者の多くはCOVID-19に関する主な情報源としてソーシャルメディアを利用しており、移植外来を利用している者は2.5%であった。 本研究により,COVID-19禍で移植後患者のメンタルヘルスを維持するために、医療者による正しい情報提供の必要性が示唆された。本研究結果は、今後新興感染症が発生した場合にも移植後患者のメンタルヘルスの危機に対応するための示唆を与えることができると考える。 本研究の研究成果は、英文学術雑誌であるAnnals of Transplantationや国内外の学会発表で公表されている。
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