社会の高齢化に伴い、嚥下訓練を行う医療職のマンパワー不足は深刻化すると予想されている。そのため、質の向上による訓練の効率化、正しい訓練、評価ができる医療者の早期育成が必要である。一方、ほとんどの高齢者にとって加齢による嚥下機能の低下は無自覚であり、脳梗塞等の全身疾患がきっかけとなり顕在化することが多い。要介護および要治療の状態になってから健康な状態に回復させるのは困難なため、機能障害が起こる前の段階である、機能低下の段階で医療が介入し、患者を健康な状態に戻すことが重要である。 これまでの研究では、嚥下訓練中における術者の判断に関する検討を行ってきた。今年度は嚥下訓練の開始時期を検討するため、嚥下時の筋活動評価より嚥下機能低下を加齢変化の段階から早期発見するための基礎的検討を行った。摂食嚥下スクリーニング検査にて嚥下機能障害の疑いがない健常な若年者15名(平均年齢22.0歳)および健常な高齢者15名(平均年齢70.1歳)を対象とし、水1mlおよび6mlの通常嚥下、努力嚥下における筋活動を計測した。多チャンネル表面筋電計から得られた情報のみから若年者群と高齢者群の間に有意差を認め、加齢変化による嚥下機能の低下を定量的かつ簡便に評価できる可能性が示唆された。今後は対象の年齢層を広げ、広い年齢層の違いを捉えられる嚥下条件と方法を探すことにより、加齢による嚥下機能の低下を簡便に認識できるシステム作りを目指す。また、嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査等との同期計測を行い、臨床的意義について検証する。
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