研究課題/領域番号 |
21K21143
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研究機関 | 埼玉県立大学 |
研究代表者 |
平田 美佳 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 准教授 (40285325)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | End-of-Life Care / 小児緩和ケア / 小児がん / 母親 / 希望 / 死別 / M-GTA / 理論モデル |
研究実績の概要 |
本研究の問いは「子どものいのちが失われるかもしれないという状況で、子どもと家族は何に希望をもち、何を支えに生きているのだろうか、笑顔さえ見せていた子どもと家族の強さは何によるものなのだろうか」というものであった。 本研究では、未だ不明瞭ながんをもつ子どもと家族の希望や支え、強さを包含して「HOPE」と称し、主にがんで子どもを失った母親のHOPEの特性やその変容プロセスを探求してきた。その結果、そのプロセスは“母と子がともに生きる世界観” (コアカテゴリーは【母親であり続けるということ】)、“希望と時間の意味づけの変容” (コアカテゴリーは【希望と絶望の矛盾に折り合いをつける】)、“母親であるというアイデンティティの変容” (コアカテゴリーは【無意識に変容される“母親”の定義】【苦しみからの一時的解放を許す他者の存在と支え】)で構成され、それらが密接に関連しながらHOPEを生み出したり、維持したりするプロセスであることが示された。がんの子どもの病と闘う母親のHOPEは、既存の希望やアイデンティティなどの概念のみで説明できるものではなく、【母親であり続けるということ】【子どもの生の発現する姿】に代表される母子の唯一無二の関係性のダイナミズムから生み出される、母親だからこそ持つ独特な強さが根源となっていた。同時に、子どもが本来持ち備えている脆弱な存在ゆえに周囲を突き動かす力、病との闘いという独特の世界観のなかだからこそ新たに生じた、子どもの主体的な自我の力によって母親に与えられているものでもあった。 母親のHOPEは、絶望的な文脈におかれてもなお存在し母親を後押しし続けるという超越的性質をもち、人間の存在論にかかわる重要な、新しい概念である可能性が見出された。この概念は、究極の苦しみのなかを生きる人間の生きる力の説明や理解をも可能にする発展性をもつものではないかと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.本研究の予備研究のひとつ、「Experiences with the End-of-Life Decision-making Process in Children with Cancer, Their Parents, and Healthcare Professionals: A Systematic Review and Meta-Ethnography」の英文学術誌(Journal of Pediatric Nursing)への投稿準備が進み、来年度初頭に投稿完了の予定であり、初年度の計画通り進んでいる。 2.COVID-19感染拡大が収束せずリクルートに制限が加わったが、がんの子どもと死別した親への半構造化面接によるデータ収集と継続的比較分析を実施し、12名のデータ分析が終了した時点で理論的飽和を確認したため、データ収集は終了した。 3.分析結果より、終末期にあるがんの子どもの母親のHOPE の生成のプロセスを記述し、領域密着型理論として理論化するところまでに至り、当初の計画より早い進度で研究が進んでいる。理論化が終了した段階で、本研究の成果は博士論文として提出し、聖路加国際大学にて学位授与を受けた。
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今後の研究の推進方策 |
1.来年度は、本研究の成果である「終末期にあるがんの子どもの母親のHOPEの生成のプロセス」を理論化したものを、日本看護科学学会学術集会(2022年12月)にて発表し、本専門領域の専門家との意見交換を行い理論を洗練させていく予定である。また、COVID-19の感染状況に応じて国際学会での発表も検討していく予定である。さらに、洗練させた理論は、国内外の学術誌への投稿に向けて論文化の準備をしていく。 2.本研究で生成された理論の臨床活用という最終目的をめざし、来年度は理論を基盤に子どもと家族中心のケアモデルを構築していくことを目標とする。さらに、構築したケアモデルを普及させていく方略を検討し、さらなる研究の道筋を立てていく予定である。 3.本研究のデータ収集、データ分析のプロセスにて、脆弱性の高い対象(本研究の場合は子どもと死別した母親)が質的研究に参加する利益と負担に関する倫理的考察やM-GTAを活用した質的研究に関する方法論的考察を実施し、副次的な新しい知見が得られた。したがって倫理的課題が多く発展が妨げられている子どものEnd-of-Life Care研究の発展への貢献をめざし、倫理的考察について日本小児看護学会学術集会(2022年7月)での発表を予定している。方法論的考察については、M-GTAの提唱者である木下康仁教授から指導を受けながらさらなる分析を続け、新しい方法論の開発にも着手していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、COVID-19の感染拡大が続いていたため、最新の知見を得たり、本研究の成果についての専門家の意見を得たりするために参加予定であった国際学会への参加を断念し、また、参加予定であった国内学会の全てがオンライン学会となったため、旅費として計上していた資金の使用がなかった。 来年度も感染状況が収束しない場合は、在宅でも研究活動が継続できるように、在宅で使用可能なディスプレイやスキャナーなどの購入を検討している。また、来年度も国際学会への現地参加が叶わない可能性もあるため、オンラインでの学会参加に加え、本研究成果を洗練していくために、研究領域の国外の専門家との研究会などを企画し、意見を求めていくことも考えており、そこに経費が発生する可能性がある。 さらに、子どもと家族中心ケアモデルの構築に向けて、当事者であるがんで子どもを失った母親たちとの集まりの場を設け、モデルの洗練と同時に、脆弱性の高い対象集団へのケアとしての倫理的配慮の可能性を探求していく予定であり、経費が発生する可能性がある。
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