ヘルス・アドボカシーは、医療者が、社会構造の狭間で生きづらさを抱える人々の声を代弁・擁護して行う、個人への健康対策と、健康に関連する社会環境の整備を組み合わせた支援活動である。本研究は、今後の日本における、医師によるヘルス・アドボカシーの実践の普及を目指し、その普及方策の検討に貢献する基礎的なエビデンスを明らかにすることを目的とした。 本研究は、主に2つの調査によって構成した。①1つは、広く一般の医師を対象として、日本の医師によるヘルス・アドボカシーの必要性の認識と取組みの現状を明らかにする、アンケート調査を行った。ミクロ(個人・家族)、メゾ(地域・集団)、マクロ(社会・国家・世界)のヘルス・アドボカシーに関して、いずれのレベルでの実践についても、その必要性は高く認識されていた。しかし、取組みの実際としては、まだメゾとマクロのヘルス・アドボカシーの実践は、十分に普及していないことが明らかになった。②もう1つは、日本において、地域社会の中で、先駆的にメゾレベルでのヘルス・アドボカシーを実践している医師を対象として、インタビュー調査を行った。リーダーとなる医師、その医師と連携する人々、実践を取り巻く環境・文化に関する要因が、実践の促進要因となっていた。一方で、実践のための資金調達や人材育成の難しさが、阻害要因となっていた。本研究により、今後の日本においては、特に、医師によるメゾ・マクロのヘルス・アドボカシーの実践の普及を目指す方策を検討する必要性が示された。 医療者によるヘルス・アドボカシーの実践は、世界で拡大する健康格差を是正する社会変革のための実践として、様々な障壁を乗り越えた学際的協力体制のもと、その普及が目指される社会的要請である。
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