高齢化に伴い、聴覚障害や視覚障害、および二重感覚障害(聴覚・視覚障害が両方ある状態)の有病率は増加傾向である。世界保健機関によると、世界の聴覚障害者数は約4億4600万人、視覚障害者数は約22億人と推定されている。また、先行研究では、80歳以上の9人に1人が二重感覚障害であったと報告されている。これら、加齢に伴う聴力・視力の低下は、他者とのコミュニケーションを制限し、社会参加を妨げ、身体不活動、心理的不健康、認知機能低下につながり、早期死亡の危険因子となることが示唆されている。しかし、日本における二重感覚障害の有症率は不明であり、二重感覚障害が認知機能や日常生活活動に与える影響は十分に検討されていない。 そこで本研究課題では、地域在住高齢者を対象に、聴覚・視覚障害、および二重感覚障害の有症率の実態を調査し、認知機能低下との関連性を検討した。また、二重感覚障害は、様々な活動を制限し、生活空間の移動性を低下させることが予想されるため、二重感覚障害が日常生活活動や生活空間に及ぼす影響について2年間の追跡調査にて検討した。 その結果、二重感覚障害を有する地域在住高齢者の割合は約11%であった。また、認知機能低下のオッズ比は、感覚障害がないものと比べ、二重感覚障害を有するもので有意に高くなることが示された。さらに、二重感覚障害を有するものは、さまざまな活動が制限されており、2年後の生活範囲が狭小化していることが示唆された。 これらの結果は、これまでの先行研究を支持するものであり、二重感覚障害が、生活範囲の狭小化と関連することを示した最初の研究報告である。視力や聴力の低下は、最も一般的な老年症候群の症状であり、高齢期のアクティブなライフスタイルの妨げとなる可能性があるため、要介護予防の観点からも、治療可能な早期から、適切な診断と治療の必要性が高まっていると考えられる。
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