最終年度の2023年度は、これまで実施してきた複数の公的統計のリンケージの手法検討をもとに、わが国の教育歴別死亡率の推定を行なった。総務省の国勢調査(2010年)と厚生労働省の人口動態統計死亡票(2010年から2015年)の個票データから、全人口の9.9%のサンプル人口を対象に地域や婚姻状況など人口分布の偏りを補正し年齢調整死亡率を算出した。この結果、全死因では男女ともに「大学以上卒業者」と比べて、「高校卒業者」は約1.2倍、「中学卒業者」は約1.4倍死亡率が高いことが明らかになった。人口分布を考慮した格差指標(Relative index of inequality)は日本では約1.5倍で、欧米など諸外国からの報告(おおよそ2倍前後)と比較すると日本人の健康格差(教育歴ごとの死亡率の差)は小さい可能性が示唆された。死因別にみると、脳血管疾患、肺がん、虚血性心疾患、胃がんの死亡率の差が特に大きいことから、喫煙に代表されるリスク要因が教育歴などの社会経済状態により異なることで死亡率の差につながっていると考えられる。わが国において死亡率の健康格差が小さい背景として、安全な水や食糧など衛生水準の高さ、社会・経済的な安定性に加えて、国民皆保険制度による医療・保健サービスへのアクセス充実が寄与している可能性が考えられる。なお、地域別の検討では地域により健康格差の大きさに顕著な違いは見られなかった。また、2000年代と2010年代の比較では健康格差は拡大していることが示唆された。本研究成果は第82回日本公衆衛生学会総会(2023年11月、茨城県つくば市)、第34回日本疫学会学術総会(2024年1月、滋賀県大津市)で発表されるとともに、2024年3月28日に国際英文ジャーナル「International Journal of Epidemiology」で公開された。
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