本研究は,脳卒中後遺症者の家事に対する自己効力感を測定する評価法の開発と,自己効力感を戦略的に高めながら家事の自立度向上に働きかけるプログラム試行の実施を目的とした.自己効力感とは,人がある状況下で特定の課題を実行できるという信念であり,本研究では脳卒中後のさまざまな困難下において家事を実行できるという信念に焦点を当てている.脳卒中を発症した方々の家事の再開や自立には,自己効力感が影響することが経験的にも知られている.しかしながら,家事に対する自己効力感を定量的に測定する手段はなく,臨床家の勘や推測に頼る状況にあった.これでは根拠に基づいた家事再開支援とは言いがたく,本研究はこうした状況を打開するための評価法開発を目指したものである. 2021年度,2022年度は,脳卒中後遺症者の家事に対する自己効力感尺度の項目プールの作成に取り組んだ.この項目プールは,脳卒中をした方々へのインタビュー調査および文献調査,既存の自己効力感尺度をもとに作成した. 2023年度は,作成した項目プールをもとに尺度原案を作成した.脳卒中後遺症者や家事を支援する専門家の意見をもとに,尺度項目と測定対象となる概念の関連性,回答者となる集団の理解度,包括的な質問ができているかの包括性を確認した.これらの検討によって,身体に痛みがあるときでも家事をする自信があるか,手に麻痺があっても家事をする自信があるか,疲れている時でも家事をする自信がある,などが尺度項目として生成された.これらの項目は,脳卒中後の具体的なシチュエーションで構成されており,脳卒中後遺症者の家事支援プログラムの開発にも資する内容となった.今後はさらに分析を進め,信頼性と妥当性の検討を継続していく.
|