研究課題/領域番号 |
21K21211
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 宙大 東北大学, 医学系研究科, 助教 (00909822)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | エピゲノム / ベージュ脂肪細胞 / 脱リン酸化酵素 |
研究実績の概要 |
皮下白色脂肪組織 (scWAT) では、慢性寒冷暴露に伴い、熱産生脂肪細胞であるベージュ脂肪細胞が誘導され、長期に持続する寒冷環境に適応する。本研究では、LC-MS/MS解析より、ベージュ化を誘導するヒストン脱メチル化酵素JMJD1AのPKAリン酸化に対する脱リン酸化酵素として、調節サブユニットMYPT1 (myosin phosphatase target subunit 1) と触媒サブユニットPP1β (protein phosphatase 1β) を同定した。これらサブユニットをRNAi干渉によりノックダウンすると、JMJD1Aリン酸化レベルが増加し、熱生遺伝子座のH3K9me2レベルが減少し、熱産生遺伝子発現が顕著に誘導された。マウス個体レベルでベージュ化に及ぼす影響を評価するため、前駆脂肪細胞特異的なMYPT1欠損マウスを作製し、欠損マウスが、対象マウスに比して寒冷に耐性を示し、scWATにおけるUcp1発現量が増加していることを見出した。またリン酸化プロテオミクス解析からMYPT1-PP1βの標的として同定したミオシン調節軽鎖 (RLC) のリン酸化を非リン酸化アミノ酸に変異させると熱生遺伝子発現誘導が顕著に低下することを見出した。更に、RLCリン酸化により誘導されるアクトミオシン張力の阻害、並びにアクトミシン張力により核内移行が制御される機械感受性転写コアクチベーターYAP/TAZのノックダウンによりUcp1発現誘導が顕著に低下することを見出した。以上、JMJD1A脱リン酸化酵素として、MYPT1-PP1βを同定し、これの阻害がベージュ化誘導に至ること、その分子機構としてリン酸化JMJD1Aを介したエピゲノム変化とリン酸化RLCを介したアクトミオシン張力-YAP/TAZ転写ネットワークをMYPT1-PP1βが統合的に制御していることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下記のように進捗をあげており、研究はおおむね順調に進んでいる。(1)JMJD1A脱リン酸化酵素候補として、MYPT1-PP1βを同定し、機能解析により、これら脱リン酸化酵素がエピゲノム変化を介してベージュ化を負に制御することを見出したことから本研究で目的であるJMJD1Aの脱リン酸化酵素同定、この脱リン酸化酵素阻害によるリン酸化亢進が、エピゲノム書き換えを介して、ベージュ化を誘導するかの解明に成功した。(2)MYPT1-PP1βによるベージュ化制御において責任となる標的リン酸化サイトの網羅的な解析から、RLCのリン酸化を同定し、MYPT1-PP1βが、エピゲノムを介したパスウェイのみならず、アクトミオシン張力-YAP/TAZ転写コアクチベーターを介した転写ネットワークも制御することで、ベージュ化を制御している可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
前駆脂肪細胞特異的なMYPT1欠損マウスの作製及び、繁殖に成功しており、今後マウス個体レベルでMYPT1がベージュ化、全身エネルギー代謝に及ぼす影響を解析していく。 MYPT1による熱産生遺伝子発現制御に、YAP/TAZを介した転写ネットワークの関与が示唆された。この分子メカニズムを固めるため、YAP/TAZの熱産生遺伝子座における局在解析を行い、YAP/TAZ局在にMYPT1が及ぼす影響を解析する。更に、JMJD1Aを介したエピゲノムパスウェイとYAP/TAZを介した転写パスウェイのクロストークを明らかにするため、酵素非活性JMJD1A点異体発現細胞を用いた解析を行う。また寒冷/βアドレナリン刺激に伴うMYPT1-PP1βの活性制御機構を解析するため、βアドレナリン受容体刺激下におけるMYPT1の翻訳後修飾解析、脱リン酸化活性の評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の実験に使用するため ① マウス個体レベルでのMYPT1のベージュ化、全身エネルギー代謝に及ぼす影響の解析 ②酵素非活性JMJD1A点異体発現細胞を用いた解析 ③ βアドレナリン受容体刺激下におけるリン酸化プロテオミクスによるMYPT1の翻訳後修飾解析、脱リン酸化活性の解析
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