研究実績の概要 |
正常な筋は、筋線維が隙間なく詰まった構造を取る。一方で、老化した筋では、霜降り肉様に筋間質の脂肪化が見られる。筋間質の脂肪化は筋萎縮に先行して生じることが報告されており、こうした間質変性により筋の力伝達が損なわれることで、筋萎縮が加速すると考えられている。2010年、この脂肪化の起源細胞は、筋間質に存在する細胞表面分子マーカーPDGFRα陽性の間葉系細胞(以下Pα+細胞)であることが明らかとなった (Uezumi A. et al., Nat Cell Biol 2010) 。加えて2019-2020年には、正常な筋におけるPα+細胞が、恒常的な筋線維の維持に必須であることが報告された (Wosczyna M. et al., Cell Rep, 2019; Uezumi A. et al., J Clin Invest, 2019)。つまり、加齢に伴うPα+細胞の脂肪化、および本細胞の担う筋維持機構の喪失が、筋重量の低下および筋力低下といったサルコペニア発症の原因となると考えられる。 サルコペニアを克服するためには、加齢に伴うPα+細胞の脂肪化を阻止する必要があり、本細胞の脂肪化機構に関する細胞生物学、分子生物学的な詳細解析が不可欠である。 ところが現状、基礎研究に使用できるヒト筋Pα+細胞は、ヒト筋組織片から得られる初代Pα+細胞のみで、著しい脂肪分化能の個体差や、得られる細胞数が限られるといった問題があった。 そこで本研究ではまず、FACSソーティングを用いて複数のヒト筋組織からPα+細胞を分取した。さらに、これらに不死化遺伝子を導入し、新規ヒト筋Pα+不死化細胞株を樹立した。次年度以降はこれを用いて、筋Pα+細胞にて加齢に伴い発現変動する遺伝子群と筋Pα+細胞の脂肪化との関連性を検証し、サルコペニアに対する新規治療基盤の構築を目指す。
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