研究課題/領域番号 |
21K21221
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
佐々木 遼 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(保健学科), 客員研究員 (90908568)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 関節炎 / 疼痛 / 低強度パルス超音波 / フォノフォレーシス |
研究実績の概要 |
本年度は「低強度パルス超音波フォノフォレーシス療法の疼痛に対する効果検証」を目的に,関節炎モデルラットを用いた検証を行った.対象は8週齢のWistar系雄性ラット60匹とし,カラゲニン・カオリン混合液を膝関節に注射することで関節炎モデルを作製した.そして,作製した膝関節炎モデルラットを,①低強度パルス超音波(LIPUS)のみを照射するLIPUS群,②ジクロフェナクのみを患部に塗布するジクロフェナク群,③NSAIDsを塗布した上からLIPUSを照射する群(フォノフォレーシス群),④関節炎群,⑤無処置の対照群に振り分けて,起炎剤惹起後7日間の介入を行った.患部の疼痛の評価にはRandall-Selitto法を用い,経時的な疼痛の変化を評価した.結果,患部の疼痛はLIPUS群,ジクロフェナク群,フォノフォレーシス群のいずれも関節炎惹起後2日目より有意な改善を示し,特にフォノフォレーシス群での改善は著しく,起炎剤投与後7日目には対照群と同程度まで改善した.また,実験終了後は膝関節と膝蓋下脂肪体を採取し,前者の試料はマクロファージのマーカーであるCD68に対する免疫組織化学染色に供した.その結果,いずれの介入も関節炎群よりCD68の有意な発現減少を示した.一方,後者の試料についてはreal time RT-PCR法に供し,IL-1βとCOX-2のmRNA発現量を検索した結果,いずれの介入も関節炎群より有意な発現減少を示した.つまり,行動学的・生物学的所見のいずれにおいても低強度パルス超音波フォノフォレーシス療法は疼痛の軽減に効果的であることが示唆され,今後はそのメカニズムを解明する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はマクロファージの動態について,炎症型(M1)マクロファージと抗炎症型(M2)マクロファージに分けて検索を行う事を考えていたが,そこまでは達することが出来なかった.この点は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う研究活動の制限も影響していたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究においては,本年度の検討課題であったマクロファージの動態に関する検索を早急に進める予定である.具体的には膝関節試料を用い,炎症型マクロファージのマーカーであるCD11cと抗炎症型マクロファージのマーカーであるCD206に対する免疫組織化学染色に供し,その発現状況を検索する予定である.その後は低強度パルス超音波フォノフォレーシス療法の疼痛軽減効果のメカニズムを解明する目的で脊髄における中枢感作への影響を検討する予定である.具体的には,脊髄試料を用い,中枢感作のマーカーであるリン酸化NMDA受容体に対する蛍光免疫染色に供し,その発現状況をもって効果検証を行う.なお,低強度パルス超音波フォノフォレーシス療法によって中枢感作に抑止効果が認められれば,本介入戦略は慢性疼痛の発生予防にも効果が期待できることから,臨床適用する上でも有益な情報提供になると考えている.なお,上記の解析,検討が終了次第,その成果は欧文論文としてまとめ,紙面報告する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い,当初予定していたM1・M2マクロファージに対する免疫組織化学染色が進まず,それに必要な試薬の購入を見送ったことが要因である.そのため,残額については上述した免疫組織化学染色に必要な薬品代として計上する予定である.
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