研究実績の概要 |
本研究では楽観性(将来の結果に対する前向きな期待)を高める可能性のある方法の1つである注意バイアス修正トレーニング(ABMT)の臨床応用に向けて、脅威回避型(DPT;ネガティブな刺激から注意を逸らす課題)とポジティブ探索型(EVST;ポジティブな刺激に注意を向ける課題)のメカニズムの異なる2種の課題を用いることで、楽観性と注意バイアスとの関連性について比較検討することを目的とした。健常成人89名(解析対象84名)を対象に、DPT及びEVSTで測定した注意バイアスと楽観性尺度(LOT-Rの楽観性総得点、楽観性下位尺度、悲観性下位尺度)及び心理指標(肯定的情動、否定的情動、反芻、性格特性)との関連を調査した。その結果、いずれの課題で測定した注意バイアスも楽観性総得点(DPT, β=0.12; EVST, β=0.09)、楽観性下位尺度(DPT, β=0.09; EVST, β=0.17)、悲観性下位尺度(DPT, β=-0.10; EVST, β=0.02)との関連を示さなかった。楽観性には、肯定的情動や反芻、開放性などの性格特性が関連を示した。本研究ではトレーニング前後の注意バイアスを測定できなかったが、注意バイアスの状態と楽観性には横断的な関連性がない可能性を明らかにした。ABMTが楽観性に与える影響は、否定的な刺激に対する注意バイアスの存在や程度に依存しないことを示唆しており、本研究の知見は楽観性を高めるためのABMTプログラムの発展に寄与するものと考える。
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