筋線維は収縮特性の異なる速筋線維と遅筋線維に大別される。一方、生体膜の主な構成分子であるphosphatidylcholine (PC)は、グリセロール骨格に2つの脂肪酸が結合するため、結合する脂肪酸の種類と組み合わせによって多種多様な分子種が形成される。演者らはこれまでに、マウス骨格筋に存在する全phosphatidylcholine (PC)分子種のうち、速筋では1-palmitoyl型PC (16:0-PC)が約80%であるのに対し、遅筋では16:0-PCが60%、1-stearoyl型PC (18:0-PC)が30%存在することを見出した。加えて、この違いを生み出す責任酵素としてアシル基転移酵素LPGAT1を見出した。しかし、LPGAT1による18:0-PC形成が骨格筋機能に及ぼす影響は不明である。そこで本研究では、骨格筋特異的LPGAT1過剰発現 (LPGAT1 mTg) マウスを作出し、骨格筋性状および筋機能変化を評価した。 その結果、LPGAT1 mTgマウスのEDL、soleusにおいて18:0-PC量が増加し、16:0-PC量が減少した。また、LPGAT1 mTgマウスでは、体重および筋重量(特に速筋優位な骨格筋)が著しく減少し、EDLにおいてType Ⅱb線維の筋横断面積の減少が認められた。持久運動能力は両マウスで差がなかった一方で、四肢握力はLPGAT1の過剰発現に伴い著しく減弱した。 LPGAT1 mTgマウスでは骨格筋における18:0-PC量の増加に伴い、速筋優位な骨格筋において骨格筋重量および筋横断面積が減少し、同時に握力が低下した。これらの結果より、速筋線維でのリン脂質プロファイル変化は筋萎縮を引き起こし、握力低下に直結することが示唆され、リン脂質に結合する脂肪酸の種類が骨格筋量および機能を調節することが明らかになった。
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