行動解析の結果からSAMP10マウスでは加齢に伴い、記憶力が低下することが確認された。T-mazeの結果では、20WのDPELD群の反応時間が有意に短かった(p<0.05)。一方で30Wには有意な差はなかった。DPELDによる運動はSAMP10マウスの短期記憶には正の影響を与えるが、実験終了時までそれは保持されていなかった。受動回避試験の結果から、20Wと30W共に対照群比べ長い潜時を示した。DPELDによる運動はSAMP10マウスの中年期と老年期の長期記憶に対し、優位性を示していることが明らかとなった。これらの結果は、DPELDによる運動が短期記憶と長期記憶の両方に効果があり、更に長期記憶を維持できることを示している。DPELDによる運動に関連する潜在的な神経伝達のメカニズムが存在し、このメカニズムが最適な記憶能への効果をもたらすことが推察された。組織解析から、DPELD群ではより多くの正常ニューロンがDG、近位CA3、遠位CA1、およびmPFC領域に保持されていた。DPELD群のsubiculumにおいては神経細胞密度が対照群に比べ高かった。ATN部位では有意な差はなかった。抗FNDC5抗体による免疫組織化学染色による陽性細胞は組織全体的に均一に分布するのではなく、DPELD群のCA1遠位部、subiculum領域、およびrostral mPFCにより多く観察された。また、ATN部位では対照群に比べ有意な差はなかった。DPELD群の海馬では対照群に比べてIrisinの発現量が有意に多かった(p<0.05)が、大脳を広範囲に観察した結果、顕著な差は認められなかった。神経栄養因子群の発現を解析した結果、DPELD群のマウス海馬におけるNGFの発現レベルは顕著な上昇を示したが、NT4/5には有意な差はなかった。大脳では、NGFとNT4/5の両方に有意な差はなかった。
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