本研究の目的は,長時間座位に伴う下肢の導管動脈と毛細血管における微小循環動態の差異を比較すること,これらの血管の機能低下の発生機序を明らかにすることである.本研究成果により,長時間座位が引き起こす心大血管疾患発症の予防法を開発し,健康増進を図ることで国民へ広く還元することを目標とする. 2022度は,12名の健常若年男性を対象に,長時間座位が下肢の導管動脈(浅大腿動脈の血行動態)と毛細血管における微小循環動態(腓腹筋の酸素摂取能)に及ぼす影響を検証した.研究デザインは無作為化クロスオーバーデザインであり,臥位条件(対照群)と座位条件(座位群)を設定し,各条件を3時間負荷した.各条件の施行順序はランダムとし,1週間以上のウォッシュアウト期間を設けた.両群において,超音波画像診断装置を用いて,浅大腿動脈のずり応力を算出し,導管動脈の機能指標とした.また,近赤外分光法を利用し,腓腹筋内側頭の血液酸素化ヘモグロビン・ミオグロビン(Oxy Hb/Mb)を1時間ごとに計測した.加えて,大腿遠位部に駆血用カフを装着し,250mmHgのカフ圧で5分間の駆血中に生じるOxy Hb/Mbの応答から曲線下面積を算出し,これを筋における酸素摂取能の指標とした.その他に,血圧,心拍数,交感神経活性,下腿周囲長も計測した.結果,座位条件において,ずり応力と腓腹筋の酸素摂取能が時間経過と共に有意な低下を示した.また,座位条件において,交感神経活性と下腿周囲長が有意に増加した. これらの結果から,長時間の座位により,導管動脈の機能低下,毛細血管における微小循環動態の悪化を示すことが明らかになり,それには交感神経の活性化と下腿浮腫が関与していることが示唆された.
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