本研究の目的は、がん悪液質における骨格筋代謝障害への軽度高気圧酸素環境の効果を検証することである。最終年度では、前年度の実験から得られたサンプルを用いて解析を実施した。その結果、骨格筋代謝に関する第一の検証で、がん悪液質におけるミトコンドリア酵素活性の低下を軽度高気圧酸素が抑制する効果は認められなかった。第二の検証では、骨格筋内の微小循環について検証した結果、がん悪液質において軽度高気圧酸素環境は筋線維毎の毛細血管数の減少およびタンパク質レベルでの血管新生抑制因子の増加をもたらし、毛細血管退行を進行させることが確認された。研究開始時には、軽度高気圧酸素環境ががん悪液質における毛細血管退行を抑制するという仮説を立てていたが、実際の結果は仮説とは対照的に毛細血管退行を促進するものであった。この結果の原因を探索するため、酸化ストレスに関する追加解析を行ったところ、がん悪液質における軽度高気圧酸素暴露が通常気圧環境に比べて酸化ストレスを増加させることが示された。したがって、がん悪液質状態の骨格筋において軽度高気圧酸素環境による毛細血管退行が観察された原因として、酸化ストレスの増加が関与している可能性が示唆された。
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