本研究では、膝関節における感覚神経の分布を明らかにするため、詳細な肉眼解剖学的解析および組織学的解析を実施し、その末端の位置や形態から感覚神経の機能や伝達経路、生じる障害についての解剖学的基盤を構築することを目的とした。材料として解剖用遺体を用い、肉眼解剖学的解析により、大腿神経前皮枝や外側大腿皮神経などの皮神経に関する詳細な知見を得た。大腿に分布するとされるこれらの皮神経は、一部の枝は脛骨粗面に達するなど、膝関節を越えて遠位まで走行した。また皮膚の感覚のみならず、深層へ走行して関節包へ進入し、関節の感覚を支配している可能性が示唆された。最も内側の大腿神経前皮枝は閉鎖神経の内側皮枝と交通しており、大腿神経前皮枝の大腿前面中央付近に分布する枝は近位において陰部大腿神経大腿枝と交通することも認められた。また、肉眼解剖学的解析に引き続き、組織学的解析を行い、末梢神経のさらに末端の詳細な形態を調査した。その結果、感覚神経が侵入部位から方向を大きく変えながら密性結合組織内を走行して膝蓋骨近傍まで達することを明らかにした。この研究成果をまとめ、2022年11月に、日本人類学会ヒト・霊長類比較解剖学分科会拡大研究会において、「膝関節に分布する知覚神経の形態学的研究」という演題名で発表した。また、本研究で得られた肉眼解剖学的解析技術を応用し、霊長類下肢の支配神経の形態に着目した比較解剖学的研究が可能になった。この研究成果に基づく原著論文は、2023年2月に米国解剖学会の発行する学術雑誌『Anatomical Record』に掲載された。現在、研究成果を広く公表するために、新たに原著論文を執筆している。
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