超高齢化社会をむかえたわが国では、加齢による筋量・筋力の減少(サルコペニア)を予防することが健康寿命に直結する。これまで、サルコペニア発症の要因に活性酸素種に由来した酸化ストレスが関係することが示唆されているが、どのシグナル分子が寄与しているのか詳細なメカニズムは不明である。近年、過酸化脂質に起因した新たな細胞死機構の「フェロトーシス」が同定され、疾患との関連性や創薬のターゲットとして注目されている。本研究は、新規細胞死機構のフェロトーシスに着目し、サルコペニアとの関連性を明らかにすることを目的とした。まず、C57Bl6マウスの腓腹筋を摘出し、加齢(20カ月齢)と若年(4カ月齢)の骨格筋でフェロトーシス関連分子の変動があるか否か検証した。その結果、加齢動物モデルの骨格筋ではフェロトーシスの関連分子であるグルタチオン還元酵素(Glutathione peroxidase 4:Gpx4)が若年動物モデルと比較してタンパク質レベルで有意に減少することを明らかにした。このことからGPx4がサルコペニアの発症機序に関与する可能性が示唆された。つぎに、Gpx4の全身過剰発現モデルを用いて加齢時の筋量・筋力を測定したところ、GPx4過剰発現マウスの骨格筋量と筋力は野生型と比べて高値を示した。また、過酸化脂質を抑制するペプチドを投与した加齢動物モデルでは、筋量・筋力の減少が緩和できることを見出した。以上の結果から、フェロトーシスがサルコペニアの一因であることを明らかにし、フェロトーシスの改善がサルコペニア防止につながることが示唆された。これら一連の成果は国際誌に公表した(Eshima et al. eLife. 2023)。
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