研究課題/領域番号 |
21K21278
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
田村 祐馬 東北大学, 情報科学研究科, 助教 (30907457)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | グラフアルゴリズム / グラフパラメータ / 計算複雑性 / 最大幸福頂点集合問題 / 区間グラフ / 置換グラフ |
研究実績の概要 |
本研究では,一般的に解くことが困難であるグラフ上の組合せ最適化問題に対し,「mim-width」や「sim-width」といった,グラフの構造的パラメータを利用した効率的なアルゴリズムの構築を目標としている.本年度はそのような組合せ最適化問題の中でも「最大幸福頂点集合問題」を扱った.グラフGの頂点部分集合Sに対し,頂点v自身とその隣接点全てがSに含まれるとき,vは幸福であると呼ぶ.最大幸福頂点集合問題はグラフGと整数kが与えられたとき,サイズkの頂点部分集合Sのうち幸福な頂点数を最大化するものを見つける問題である. 本問題の既存研究では,グラフの構造的パラメータや特徴に基づいたアルゴリズムの構築が行われてきた.既存結果の1つに,区間グラフ上の多項式時間アルゴリズムが存在する.区間グラフはグラフアルゴリズム分野において,実用的・理論的,両方の観点から重要な立ち位置にあるグラフである.しかし,区間グラフに対する既存のアルゴリズムは計算時間が大きく,実用的とは言い難かった. そこで本研究では,区間グラフのmim-widthが小さいという性質を利用して,区間グラフのアルゴリズムを再構築し,計算時間を改善した.また,同様にmim-widthが小さいグラフとして置換グラフを挙げ,多項式時間アルゴリズムを新たに構築した.本研究で構築したアルゴリズムは,整数kの値が小さければ実用的にも高速に動作する. mim-widthが小さいグラフに対しては,様々な問題に多項式時間アルゴリズムを与えるフレームワークが既存研究で提案されている.しかし,今回扱った最大幸福頂点集合問題は,既存のフレームワークに直接的には合致しないものである.したがって,本研究でmim-widthが小さい区間グラフや置換グラフに対して多項式時間アルゴリズムを与えたことは,mim-widthの可能性を広げるものとして重要性を持つ.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度では主にmim-widthを扱い,mim-widthが小さいグラフに対するクリーク問題の効率的なアルゴリズムの構築を計画していた.しかし,研究を進めた結果,クリーク問題はmim-widthが2であるようなグラフを入力とした時ですらNP困難,すなわち問題を高速に解くことは難しい,ということを証明した.一方で,mim-widthが1であるグラフに対して,クリーク問題を解く効率的なアルゴリズムを構築した.すなわち,mim-widthの観点から,問題の計算複雑性を解析することができた.今回利用したアルゴリズムの技術は,バイクリーク問題やクラスター頂点削除問題といった,密な部分グラフを求める他の問題に対しても適用可能であると考えている.本研究成果はまとまり次第,論文執筆及び国際会議への投稿を予定している. また,研究実績の概要でも述べた通り,mim-widthが小さいグラフ上での最大幸福頂点集合問題を扱い,区間グラフについては既存のアルゴリズムよりも高速なアルゴリズムを与えた.本成果は国際会議WALCOM2022に採択されている.現在は本研究成果をさらに拡張し,学術雑誌への投稿を準備している.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度はmim-widthに関する成果をまとめるのと同時並行で,独立点集合問題に対してsim-widthを利用したアルゴリズムの構築を目指す.しかし,sim-widthはmim-widthよりもさらに汎用的な構造的パラメータであり,アルゴリズムの構築は容易ではないことが予想される.そこで,その取り掛かりとして,今後はsim-widthが1であるグラフに対して,グラフの構造を解析し,効率的なアルゴリズムを構築できないか考える.また,令和3年度に引き続き,関連研究の情報収集を目的として,国内外の研究集会や学会に参加する.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は当初の想定以上に新型コロナウイルスが蔓延し,海外現地での研究打合せや国際会議に参加できず,全てオンラインでの参加となった.国内での研究集会でも,オンラインでの開催が中心であった.これらの理由により,旅費を支出する機会が無く,次年度使用額が生じた. 今後も新型コロナウイルスの影響は続くと思われ,海外渡航の是非は不透明のままである.そこで令和4年度は科研費申請時の予定以上に,オンライン環境の拡充を計画している.そのため,物品費の割合が高くなり,旅費の割合は相対的に低くなることが予想される.
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