M凸関数は解きやすい離散最適化問題を統一的に扱うための理論的枠組みとして知られている.本研究の目的は離散的な凸性,特にM凸関数の最小化問題およびその関連問題について,局所最適解が得られない状況における高性能なアルゴリズムの構築を行うことであった.M凸関数の最小化問題について新たなアルゴリズムの完成には至らなかったが,前年度に引き続き関連問題であるジャンプシステム上の分離凸関数最小化問題に関するアルゴリズムの性能の考察を行い,以下の興味深い結果を得ることができた.
・1995年に安藤らによって提案されたある種の貪欲アルゴリズム精緻化することで,初期解から最適解に遷移できるという測地線性質の証明を完成させた.この問題は複雑な離散構造を持つため,従来の離散凸解析において用いられた証明方法とは異なる方法を用いている.複雑かつ長い証明のため,専門家との議論や論文の査読において多くの指摘をうけたが,証明の可読性向上のための大幅な修正を行い,最終的にこの結果は査読付き論文誌Discrete Applied Mathematicsに掲載された.
・昨年度に課題となった測地線性質を持つ別種の貪欲アルゴリズムや最急降下法が構築可能かという問いについて,貪欲アルゴリズムとは異なるアルゴリズムとしてある種の最急降下法を考え,アルゴリズムが測地線性質をもつかを検討した.この結果についてはまとめることができなかったものの,いくつかの良い性質を証明することができている.
|