研究課題/領域番号 |
21K21291
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
阪井 祐太 兵庫県立大学, 工学研究科, 助教 (70907849)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 情報理論 / シャノン理論 / 漸近解析 / スムースレニーエントロピー / 情報スペクトル的手法 |
研究実績の概要 |
今年度は本研究課題の成果として、情報理論および符号理論のトップジャーナル「IEEE Transactions on Information Theory」に2報の論文が採択された。 1報目の論文では、語頭条件のない可変長データ圧縮問題を扱い、一定の誤り確率を許容した場合の最適平均記述長について、スムース操作に関連する「カットオフ操作」を介した解析を行った。本解析方法によって、2015年に発表されたコスティナ-ポリヤンスキ-ベルドゥらによる最適平均記述長の2次オーダ漸近解析よりも精密な「3次オーダ漸近解析」を可能とした。また、従来の固定長データ圧縮問題における3次オーダ漸近解析は中心極限定理の評価である一方で、可変長データ圧縮問題では大偏差原理の評価が本質的であることを示した。 2報目の論文では、キャンベルの符号化問題、アリカンのゲッシング問題、ブンテ-ラピドズのタスク符号化問題について、条件付きスムースレニーエントロピーにより理論限界を解析した。特に、2020年に葛岡が提案した条件付きスムースレニーエントロピーの定義による解析と、申請者による新たな定義による解析を行い、それぞれの定義にて異なる誤り規範の下での理論限界が解析できることを示し、双方の条件付きスムースレニーエントロピーに対して新たな操作的意味づけを与えた。とりわけ、条件なしのスムースレニーエントロピーについて中心極限定理の精密な評価が可能であることを示し、それにより古典的な固定長符号化問題とキャンベルの符号化問題との間の理論限界の差異が高次漸近論により明確に異なることを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要にて記述したとおり、本研究課題の結果として本年度に情報理論および符号理論のトップジャーナル「IEEE Transactions on Information Theory」に2報の論文が採択された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析にて、スムース操作とカットオフ操作との間には密接な関係があり、各々の操作には異なる用途があることが分かっている。特に、スムース操作は誤り確率を許容した符号化問題の理論限界解析の際に有効であり、カットオフ操作に対しては確率論の極限定理による評価を行う際に都合が良い。一方で、条件付きのスムース操作に相当する条件付きカットオフ操作は極限定理の解析が複雑になる難点があり、それゆえ現時点では、条件付きスムースレニーエントロピーの2次オーダ漸近論を正確に評価できていない。また、スムース操作とカットオフ操作にはMajorization Theoryによる明確な特徴付けが可能であるが、条件付きの場合を考える際にはMajorization Theoryによる間接的な対応関係のみ解明されている。今後の研究では、条件付きの場合におけるより明確な表現を与えることを目指し、それにより今日の高度情報化社会において極めて重要なネットワーク符号化問題の理論解析の精密化を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行により、国際会議等の出張費が不要であるという特殊性により研究費の用途が大きく変わったことが一因である。ただし次年度使用額は少額であるため、およそ消耗品等の購入に利用する算段である。
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