本研究の目的は,聴覚フィードバックにおける気導・骨導経路による自己聴取音声の伝達・知覚過程を明らかにすることである.その具体的内容は次の2点である.① 実際の発声や人工音励振を用いて,発話器官から聴覚器官に至る骨導伝達系の周波数特性を物理的測定により明らかにする(1年目).② 得られた伝達特性を用いて骨導音声を模擬し,自己聴取音声の聴感を満たす気導・骨導音声の混合レベルの決定により,気導・骨導経路の各々の知覚的寄与を明らかにする(2年目 + 1年延長). 実施3年目として,2年目に引き続き骨導伝達特性の安定測定のための基盤整備および知覚的寄与の検討を実施した.最初に,発話時の外耳道内放射音や頭部振動を観測する手法について検討した,実験協力者10名を対象に測定を試みた結果,外耳道内放射成分については話者によらず2.5~3 kHz付近の帯域通過特性を有側頭部振動成分については平均約^7 dB/octのスペクトル傾斜をもつ高域減衰特性を有するが,個人差が大きいことが分かった.話者に知覚される自己聴取音の音響特性に「話者自身の骨導伝達特性の個人差」が大きく影響している可能性があることが示唆された. 次に,得られた伝達特性を用いて骨導音声を模擬し,自己聴取音声の聴感に近づく模擬骨導音声の混合条件を決定した.前述の実験結果に基づき,話者自身の骨導伝達特性の個人差を考慮した条件で,実験協力者10名による主観評価実験を実施した結果,骨導経路全体で伝達される音声のパワーは気導経路を基準として-3 ~ 0 dB程度であり,その上で中耳・内耳で伝達される骨導音声のパワーは外耳経由での伝達されるパワーに比べて-3 ~ 0 dB程度である可能性が分かった.これらのことから,骨導を介した自己聴取音声の伝達では,外耳経由および中耳・内耳の経路のそれぞれで概ね同程度の知覚的寄与を有している可能性が示唆された.
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