当該年度は,質感と瞳孔反応の関係性を明らかにするための実験刺激生成法,計測手法および解析手法を確立した.具体的には,これまでの質感研究で最も研究対象とされてきた光沢感に着目し,ヒトが画像の光沢感を評定する際の瞳孔反応を計測し,光沢感と瞳孔の関係性を調査した.実験刺激には,光沢の強さの異なる一般物体画像(Original)と,それら画像の物体領域内の画素を大小様々な正方形領域でランダムにシャッフルした画像(Shuffled)を用い,全画像をヒストグラムマッチング法により輝度統制した.これにより画像の輝度ヒストグラムから求められる特徴量を完全に等しくして,物理的要因が瞳孔反応に与える影響を最小限とした.これらの刺激を用いて,光沢の有無と物体の曖昧性の有無がどのように瞳孔反応に反映されるかを同時に検証した.心理物理実験では,実験参加者の瞳孔反応を常時計測し,参加者は3000ms呈示される画像を観察した後に,その画像の光沢感の強さを7段階で評定するタスクを実施した.その結果,光沢感が高く評価された画像を観察中には瞳孔径がより縮瞳し,それは対光反射付近の比較的速い時点で生じることがわかった.同時に,物体が曖昧なときはより遅い時点で瞳孔が散瞳した.以上の結果は,物体表面のハイライトによって生じる「輝いて見える認知的要因」が瞳孔径を縮瞳させることを示唆する.本成果をプレプリント1本として公開し,学術論文として投稿した.加えて,鏡・ガラス材質識別を画像計算可能なモデルについての論文1本が採択された.
|