本研究の目的は、外科手術を必要としない、赤外光レーザー人工内耳の開発である。本研究では、レーザー人工内耳のヒトへの実用化を目指し、レーザーの長期照射時の聴覚末梢への影響や知覚の安定性について検証した。具体的には、スナネズミを対象としてレーザー刺激が聴覚抹消や知覚に障害を与える露光量を特定した。 レーザー刺激の安全域を定量的に評価するために、頭部を固定したスナネズミに音に対する古典条件づけを行い、音刺激(70 dB SPL)と報酬(水)の関係性を学習させた(例:音刺激が提示されたときに反応した場合に水を与える)。スナネズミの口元に飲み口を設置し、音刺激を報酬無しに提示した際の舐め行動を条件反応とした。訓練完了後、20、35、50、65、80、95 dB SPLの音刺激に対する行動応答を計測した。その後、スナネズミの外耳道に光ファイバー(直径:100μm)を挿入し、異なる露光量のレーザー刺激(0.06、0.12、0.24、0.96、3.82 mW)を15時間連続照射し、レーザー照射中の蝸牛応答とレーザー照射後の音刺激に対する行動応答を計測した。 結果として、露光量が3.82 mWのレーザーの連続照射によってスナネズミの行動応答は大きく減少し、コントロール条件の±95%信頼区間の範囲(安全域)から外れたが、0.06-0.96 mWの露光量でレーザーを連続照射した条件では行動応答の減少は安全域の範囲内に収まった。また、3.82 mWのレーザー照射により誘発された蝸牛応答は、レーザー照射後1時間以内に大きく減少したが、0.06-0.96 mWのレーザー照射ではほとんど減少しなかった。これらの結果は、0.96 mW以下のレーザー刺激を人工内耳に安全に適用できる可能性を示唆している。
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